障害物24 占い師 寧寧

 その日、俺は何かに取りつかれたようにコンビニへ行くことに執心していた。

 何故かはわからない。

 思い出せない。

 急がなければならないという事だけは覚えていた。


 俺がコンビニへ向かおうとすると、何故か邪魔をするように女の子が現れ、行く手を阻んだ。

 この一連のやり取りに辟易しつつも、俺は引き返したりはしなかった。

 さぁ、行こうか。

 コンビニへ……。



「アイヤー、お兄さん。女難の相が出てるヨー」


 俺は道行くチャイナ服の少女に呼び止められた。

 眼の前の少女も含めて、占いは当たっているようだった。

 怪訝な目で観察していると、少女は急に照れて顔を赤くしたのち、コホンと咳払いをしてから再び口を開いた。


「アタシは寧寧。ラーメン屋でバイトしてる女子校生アルヨ」


 なぜ自己紹介をした…?

 中華そば屋の岡持ちも、よく似合っているシニヨンキャップも、全てわざとらしい……。

 この寧寧とか言う女、何だか胡散臭いぞ。


「あ、あぁ。そう。俺は北島勘太…って、なんで自己紹介してんだ俺……」

「勘太くんネー。覚えたヨー」


 寧寧とか言う女は、例えて言うならば、そう……。変な言い方かもしれないが。


 "パチンコの当確演出を眺めるような目"で俺を見ていた。



 遠くから蝉の声が響いてくる。

 じりじりと熱い直射日光がアスファルトを溶かしている。

 俺の頬からぽたりと垂れた汗の粒が、地面に落ちると同時に蒸発していく。


「ねぇ、勘太くん」


 その女にどれだけ見つめられていただろうか。

 いや、その女をどれだけ見つめていただろうか。

 ふいにかけられた言葉に、注意を逸らされた。

 まるで、手品師がショーで客の目を欺くかのように巧妙に俺の意識はその女に注がれた。


「な、なに?」


 夏の熱気に乾いた喉が張り付いて声が突っかかる。


「なんて伝えたらいいのかナー。信じてもらえないだろうケド……」


 寧寧とか言う女はもったいぶっているのだろうか、口ごもっている。


「寧寧は勘太くんの未来を知ってるだけで、これは寧寧のせいじゃないんだよネー。だケド……」


 あぁ、暑い。直射日光が俺の黒い髪に熱をどんどん送り続けている。

 何か言うなら早く言ってくれ……。


「頑張ってネ、これから何が起きても」


 なんだ、そんな、ことか。

 俺はついに熱に耐えきれなくなり、ひざから崩れ落ちた。

 黒こげのアスファルトが頬に食いこんで痛い。

 普段から運動などしていないものだから、こうも簡単に熱射病になってしまったのか……?

 猛烈な眩暈と吐き気。そして、世界が揺りかごに放り込まれたかのように揺らぎ、たわむ……。


 地面にへばりついたまま、俺はぼやける視界の中で寧寧とか言う女を見上げた。

 あぁ。

 俺はこんな所で倒れている場合じゃないんだ。


 行かなきゃ……コンビニに……。



 俺の意識は、そこでいったん途絶えた。


 

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