幕間1
「いや、ホント。お兄がファンタズマを頭からかぶって帰って来た時はどうしようかと頭を抱えたよ」
妹のアリカは相変わらず俺の部屋に勝手に来て、ゲーム用のヌンチャクを振りまわしている。
「俺だって、あんなことになるなんて思わなかったわい。俺はただコンビニに行こうとしただけだったのに」
あの時……。園崎そら先生の凶悪な妨害工作によって帰宅を余儀なくされた俺は、シャワーを浴びて着替えた頃には既に再び外出する気力を失っていた。
あまりにも障害が多過ぎたのだ。
だからこうして布団にくるまって英気を養っているのだ。
再びコンビニに行く時まで。
「お兄、やっぱりお兄には無謀な挑戦だったんだよ。だからもう諦めてアリカと遊ぼう……? ダッツさんならお母に買って来てもらえば良いしさ」
アリカはヌンチャクを振りまわしながらのそのそと移動し、布団の中で悶々としている俺の上にのしかかってきた。
「だいたいさぁ、そうやって布団にくるまってからもうずいぶん経つわけじゃん……? まあ、あんなことがあればトラウマになるかもだけど」
「そりゃ、そうだけどな。お兄は今こうしている間にも前回の事を思い返して攻略のイメトレをしているわけだよ。もうすぐだ。もうすぐ王の道が開けるのだ」
「あぁ、そう……」
アリカは呆れたのか、以後ゲームに集中して喋らなくなった。
俺はというと、アリカの座布団と化しながらも必死にイメトレに励んでいた。
今度はどうすればいい?
誰かを見かけても無視するか?
どんなに考えても必勝パターンが見えてこない。
諦めかけたその時、俺の脳裏に天啓が……。
……いや、なんにも来ないわ。
精々、上に乗っているアリカの尻が俺の内臓を圧迫しないようにするにはどう寝転べばいいかぐらいしか思いつかんわ。
その微妙な寝転びもすぐに座りなおされて徒労に終わるわ。
ちくしょう。
苦しい。
苦しい。
……ぐええ。
「おりんか! あほアリカ!」
俺は立ち上がった。
アリカごと布団を跳ねのけるようにして、ベッドの上に立ち上がった。
「ぎゃふっ! もう、お兄ったら。起きるときは声かけてよ。いたた」
ベッドから転げ落ちたアリカはシャチホコみたいなポーズにひっくりかえりながらもヌンチャクは手放さずにゲームを続けている。
なかなか俺に似て、諦めの悪い奴だ。
「お前はそこでそうしていろ。お兄はちょっと出かけてくる」
「はいはい、いっといれ」
「トイレじゃない! コンビニにだ!」
「えぇー。無理しなくてい……」
アリカは、妙な所で口ごもって何かブツブツと言い始めた。
「い、いやあ。お兄ちゃん、今日は絶好のコンビニ日和だねえー」
「何だ、急に棒読みで。きもい」
「お兄に比べれば、まだなんとか人類レベル」
「俺は何なんだよ! ピテカントロプスか!?」
「まぁまぁまぁまぁ。今回は私がお駄賃をあげるからさ、今度こそダッツさん買ってきてよ」
「…? お、おう? まぁ、ちょうどそのつもりだったんだけどな。気前いいな」
「そりゃ、とっとと……いや、うん。お兄ちゃんに元気になって貰いたかったからぁ。ウフ」
「……意味が分からん。とりあえずアイスだけでいいんだな」
「ダッツさんね」
「うん。ダッツさん。抹茶味でいいか」
「紅芋だっつーの」
「へいへい、じゃあ行ってくるから。大人しく留守番しとけよー」
「いってらっしゃ~い!」
そうして俺はアリカに追い出されるように部屋を出た。
「なんなんだよ、まったく」
しかもアリカは部屋の鍵までかけてしまった。
どうやら、俺の意志を硬くするためにそこまでしてくれたらしい。ありがたいことだ。
と思った矢先。部屋の中から狂ったような声が聞こえてきた。
「っひょ~、お兄のやつ、こんな所にも隠してたのか。うわぁ、えげつな! しかも妹モノがいっぱいある! 感じちゃうわぁ、身の危険を」
……。
ナニヲシテイルノカナ?
「ッフー。さすがお兄。ベッドの下じゃなくてマットレスの下に隠すとはね。こんな所で寝てるからすぐ腰痛になるんだっつーの」
……。
「ちょっとまてェェェェェ!! あっ、鍵が! こらアリカ! あほアリカ! 見るな! そんなものを見ちゃいかん! あけなさい!」
ガチャガチャガチャ。
ドアノブを何回ひねっても扉は開かない。
「ぐふふ、ダッツさん買ってきたら開けてあげる。おおぉ、こっちは姉モノかぁ。お姉と一緒にどんぶりになるのはちょっと勘弁かなぁ」
「ひっ、ひぐっ…グスン……もうやめてぇぇぇ。らめぇぇぇ!!」
アリカは俺の部屋の秘宝を探し当ててしまったらしい。
これは、とっととダッツさんを手に入れて献上しないと俺の全てが暴かれてしまうぞ。
急げ、急ぐんだ俺。
一刻も早く、行こう。コンビニへ……!
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