障害物13 男の娘 蘇芳
!前回までのあらすじ!
北島勘太、高校生。現役ひきこもり少年である。
ある朝 目が覚めた彼は「太陽がまぶしかったから」という理由で、
脱ヒキコモリをしよう、その第一歩として難易度が低そうなコンビニに行こう! と決意する。
だが、ほんの少しコンビニに向かって進むだけれ現れる数々の障害物……。
はたして勘太はコンビニに行くことができるのか!?
そして、次第に明かされる『ひきこもりになった理由』とは……!?
また、彼を取り巻く恋模様の行方や如何に!
!以下、本編!
「……もう、姉さん。勘太クンが怖がってるよぉ」
一応、説明しておこうか。
今俺の目の前にいるのは男装の生徒会長、翔。そして彼女が連れて来た弟の蘇芳くんだ。
そう。
『俺にどーしても会いたいっていう可愛い子』というのは……。
男の子、いや、男の娘だった。
「ごめんね、勘太クン。姉さんの情報筋から聞いた話で、勘太クンがヒキコモリをやめて家を出たって聞いたものだから、居ても立っても居られなくなって……ボク……」
うるうると瞳に涙を湛えて喜びを表す蘇芳くん。
だが…。
敢えて言わせてくれ。
「だが男だ!」
最近見たアニメの台詞を言わざるを得ない。
蘇芳くんは姉の翔とは正反対に、実に女の子らしい男の子なのだ。
クラシックロリータというファッションだろうか、ココア色のワンピースに胸元がハート型になった白いフリルのエプロンを付けている。
近づいただけで甘ったるいバニラのような香りが漂い、まるで夢でも見ているのかとクラクラしてくる。
これが本当に男の子なのか。俺と同じものが生えているのかと目を疑いたくなる。
だが、そういうことらしい。
「うん……ボク、男だよ。でもね、男の恰好でこんなことを言ったらきっと気持ち悪がられるかと思って。少しでも抵抗ないようにって頑張ってきたんだけど……逆効果だったかな」
しゅん、とあからさまにしおらしくうなだれる蘇芳くん。
俺は胸から込み上げる物を必死に抑えて後ずさる。
「あっ、勘太クン! ごめん、ごめんね。だけど、一度だけだから。答えてくれなくて良いから、伝えさせて……!」
蘇芳くんは祈るように胸の前で手を合わせて追いすがってくる。
「ごめ……ごめん、蘇芳くん……! 俺は、コンビニに行かないといけないから……!!」
走り出した。
俺は踵を返し無我夢中で、その場から逃げるように走り出した。
コンビニとは逆方向になってしまう。だが、知ったことか。
あの場に留まる事も、あの場を切り抜ける事も俺にはできない。
完全な敗北だ。
例え遠回りになろうとも、きっと別の道でコンビニに辿り着いてみせる。
俺は、コンビニへ行くという思いをさらに強固にして走り続けた。
もう、どれくらい走っただろうか。
線路の歩道橋のふもとまで俺は帰ってきてしまっていた。
危なかった。
蘇芳くんの言葉を最後まで聞いていたら、耐えられなくなってしまっただろう。
彼には実に申し訳ない事をした。
だが、だが言わせてくれ。
「めっちゃくちゃ好みのタイプだぁーーーーーー!!
ああぁ、びっっくりしたぁーーーーーーーーーー!!
あんな可愛い子に告白されたら……
惚れてまうやろぉーーーーーーーーーーーーーー!!」
はぁ、はぁ。
久しぶりに腹の底から大きな声を出した。
危ない危ない。
あと少しでも長くあの場にいたら俺は蘇芳くんを抱きしめていただろう。
そしてコンビニに行くのも、蘇芳くんが男だという事も忘れて、甘い時間を永遠に過ごしていたことだろう。
なんて過酷な障害物なんだ。
俺は気を取り直し、先ほどとは違ったルートからコンビニへ行くことにした。
待っていてくれ、アリカ(妹)、いろは(幼馴染)、麗ねえ(姉)…。その他大勢……。
きっと辿り着いてやるからな、コンビニに!!
俺は、コンビニを探して歩き始めた。
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