10,000,000,000円で売れる小説書いてみろやオラァン!!

ちびまるフォイ

ガチャ小説にまじになってどーすんの

「俺に10億円の小説を準備しろなんてムチャですよ!!」


「安心しろ。金ならすでに用意している」


レーベルさんは札束の山を秘書に運ばせた。

テーブルいっぱいのお金がさんぜんと輝いている。


「それで……俺にどうしろと?」


「この10億円を使って、売れる小説を準備してもらいたい」


「なんで!?」


「いいか、売れる小説というのは金のなる木と同じなんだ。

 ひとたび売れれば、小説だけでなくアニメ・グッズ、関連商品

 ライブに何から何まで売れまくって10億なんて軽く稼げる」


「知らなかった……」


「しかし、すでに我々は幾多の自信作を世に出したはずが

 ことごとくユーザーに見向きもされずに金をどぶに捨ててきた。

 しかし! 君なら! いち凡人の君なら! 近い立場で考えられるはずだ!」


「断ったら?」

「こっちには10億あるんだ。なにができると思う」


俺は10億の小説計画にのることになった。


「しかし、売れる小説なんてなぁ……」


ネットで売れる法則がないか検索していると、有名作家の名前がずらずらと出てきた。

頭の中で「これだ」の3文字が浮かんだ。


「お願いします! 新作の面白い小説を書いてください!!」


さっそく有名作家へ直々にお願いしに行った。


「あのね、そういう飛び込みの営業は困るんだよ。

 こっちだっていくつも執筆を抱えているわけで、

 君のような得体のしれない人間の頼みを聞く余裕なんて――」


「5億あります」


「余裕ありまくりだよ」


有名作家は一気に優しい顔になった。

その顔のまま、抱えているすべての仕事を体調不良と身内の不幸で休みにした。


「それじゃ、とにかく今までにない、確実にヒットするような名作をお願いします」


「任せてくれたまえ。作家人生すべてをこの仕事に賭けよう」


有名作家を信じ、受け取った原稿はそのまま右から左へ流され出版へと至った。

我が子を見送る親のような気持ちで売れ行きを見ていると、結果が出た。



「売れてないな……」


有名作家の触れ込みで一時的に人気にはなったけれど、

社会現象になるほどの名作というわけでもなく1か月もすれば話題にもならなくなった。


改めてヒット作を出す難しさを思い知った。


「ええい! 作戦変更だ!」


今度はケチって1億円を使って新しい小説大賞を立ちあげた。

対象入選者にはなんと1億円という、宝くじよりも現実的な賞レース。


有名作家の書き上げた純度の高い作品よりも、

若手作家の書き上げた粗削りだが尖る作品にこそ名作があるはず。


1億円の吸引力もあってすさまじい応募数の作品が届く。

この中にきっと1つは社会現象を起こすほどの作品があるはず。


 ・

 ・

 ・


「なん……だと……」


膨大な時間を使って、すべての作品を読んでみたものの、よくわからなかった。

面白いものもあるし、つまらないものもある。


選定されたものが人気出るのかと言われれば自信がない。


それでもと、あまたの作品の中で一番いいと思った作品は出版させた。

結果、あっという間に話題にもならずに流された。


「うそん……全然ダメじゃん……」


読めば面白いと思うのに、誰にも読んでもらえなかった。

残り4億円。


時間をかけたわりに見返りが少なすぎる結果に終わったが、それでも教訓は得られた。


「売れる小説と、面白い小説はちがうんだ!!

 俺はなんて勘違いをしていたんだ!!」


賞レースの中に応募されていたもう1作を出版させると、3億円を宣伝費にぶち込んだ。



『王道ファンタジー冒険譚小説、ここに登場! 好評発売中!』


洗脳される人が搬送されるほどに、繰り返しCMを流し続ける。


町の電信柱には小説のポスターを貼りまくり、

通販サイトでは★5評価を増やしまくり、有名俳優やアーティストに宣伝させる。


「最近読んでる本ですか? この『王道ファンタジー冒険譚小説』ですよ。

 内容はまだ読んでいる途中なんですけど、面白いです」


「どんなところが?」

「字がいっぱいなところとかですかね」



『この番組は、ご覧の小説スポンサーの提供でお送りしました』


3億円かけたすさまじい猛プッシュ作戦の結果は……。




「全然売れてねぇ!!」


ダメダメだった。


3億円もかければどうしても宣伝があざとくなりすぎてしまう。

宣伝にそそのかされて買った人も、内容が宣伝ほどではないと肩透かしのコメント。


俳優やアーティストも宣伝としてはよかったものの、

実際に読んでない人が多くあざとさを増すばかりだった。


俺は1億をもって引きこもるしかなかった。


「もう駄目だ……どうやっても売れる小説なんてできないよ……」


「たかし、どうしたの?」


「ババア! 勝手に入ってくるなって言ってるだろ!」


「でも天井が開いていたから……。それにずいぶん悩んでいるようだし……」


「どうすれば面白い小説を1億ぽっちで作れるか考えてたんだよ」


「あら、お母さんはたかしの書いた

 『小説ガチャでリセマラしたら奴隷が手に入った』は好きよ?」


「読んでるのかよ!?」


家族の共有PCの危険性と閲覧記録の削除方法は学校でぜひ必修科目にしてほしい。


「とにかく、小説を売らなきゃいけないんだ! 出てけよ!」


母親を追い出してから机に向かってうんうんうなりながら作戦を練った。

なにも思いつかないという結論にいたる有意義な時間だった。




翌日、書店に行くと俺の小説が入り口に飾られていた。


「いつのまに出版されてたんだ!?」


驚いたのはレジ前に長蛇の列ができ、その手には俺の小説が握られていた。

信じられない光景に目をうたがったがネットニュースでも俺の小説の人気が触れられていて、信じざるを得ない。


(たかし……)


(たかし……今、あなたの脳内に直接話しかけているわ……)


「母さん!? これは母さんがやったのか!?」


(あなたの小説、面白いといったでしょう。自分の力を信じなさい……。

 1億円なんて使う必要はもうないのよ……忘れなさい……)


「うん、俺自分が面白いと思ったものを書いてよかった!!」


行きかう子供たちはみな俺の本を持っている。

なんなら2冊、3冊買ってくれている人もいる。


「小説ガチャ、買ったぜ」

「俺も買ったよ!」

「さっそく開いてみよう!」


子供たちはワクワクしながら本を開いた。

俺の書いた文章がこんなにも人の心を動かす日が来るなんて。


「あーー……はずれだ……」

「こっちも入ってなかった」

「んだよ、ムダ金じゃーん」


子供たちは本を読むことなくゴミ箱に捨てて行ってしまった。


「待って! 君たち、どうして俺の小説読まないんだよ!?」


「え? だって、付録が入ってなかったんだもん」


「付録?」


「帯見てみろよ」


小説の帯に目を向けてみた。




『1万部限定! 本の中に1万円が入っているヨ!  たかしの母より』

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