第74話「蜘蛛さんこちら」
蜘蛛、ムカデ、クワガタ、また蜘蛛。巨大生物ってのは日本の某有名アニメーション映画みたいに虫ばっかりなのかなーって思った矢先に今度は兎やリス。
どうやら意思疏通が図れなくて凶暴なデカい生き物は巨大生物と一括りにされるらしい。
巨大生物って虫ばっかりだと思ってた。心の底から安堵した。
森の生き物皆狩り尽くす勢いで巨大生物を片っ端から片付けていく。道中、迷子にならぬよう木に目印をつけるのも忘れない。
そうやって淡々と作業をしていたら急に視界が開けた。
「うわ……何ここ」
ラクサ村やハルバ村よりずっと広い敷地。
建築物は一切ない。だが無造作に雑草が伸びてるとかはなく、むしろ手入れされてる。まるで人間以外の種族の住処のようだ。
奥を見やれば滝がドドドドっと勢いよく流れ落ち、その下に小さな湖くらいの水場がある。
でもそれらよりも圧倒的に異様な存在感を放つものがそこにはあった。
図鑑で見たことのある恐竜。
の、屍の山。
古代生物の実物を目にした感動よりもその凄惨な現場に眉をしかめた。
パッと見はティラノサウルス。
あくまで予想だけど、ここを通った巨大生物に襲われて村は全滅ってところだろうか。エイミーも言ってたしね。巨大生物が活発化してるって。だから私も見回りしてるんだし。
にしても、ティラノサウルスがやられるとは思わなかった。
この世界の恐竜は弱い部類なの?それとも遭遇した巨大生物が相性悪くてやられただけ?
どちらにせよ、息のある恐竜はいない。土葬しようにも10体以上ある巨体を私一人で埋めることなんてできないし……悪いけどここは放置で。
ざっと見たところこの村に続く道らしき道はなさそう。かなり辺鄙な場所まで来てたのね。気付かなかった。部外者がどうこうできる案件じゃないし、兵士に全部押し付けよう。
アレンか、もしくはラクサ村とハルバ村をよく巡回してる兵士に事情説明すればあとはなんとかしてくれるでしょ。前にチェルシーに連れ回された件で巡回してた兵士の何人かと知り合いになってるんだよね。
ひとつだけ問題があるとすれば、ここまでの道程がかなりの獣道ってことかな。森で生まれ育った人でも苦戦間違いなしだ。
ブラッドから借りた剣で木を斬り倒しながら帰れば分かりやすくなるかな?目印をつけた木をこの村に向けて倒していけば……うん。いける。採用。
大丈夫。ちゃんと後で整備するから文句は言わせない。
粗方巨大生物は狩り尽くしたし、当分は穏やかな生活が遅れることだろう。恐竜達の血の乾き具合でそう時間が経ってないことが伺えるが、万が一恐竜を全滅させた巨大生物と遭遇してもバトるなり逃げるなりすればいい。
ならもう今日は切り上げるか。
「あー疲れた……」
ぐーっと伸びをしてだらんっと腕を下ろす。肩から力が抜けて張り詰めていた空気を溶かした。
余裕で倒せるからって油断してたら足元掬われるからね。ずっと気ぃ張ってるのも疲れるわー。
屍の山は見てて気持ちのいいもんじゃないけど、喉乾いたからそれらをすり抜けて水場に足を運んだ。
頭に巻いていたカーディガンをひっぺがし、片手で水を掬って口に持っていく。天然水美味しい。
「……ーー!ーーっ」
自然の味を堪能していると、滝の向こう側から何やら声が聞こえてきた。人の声というより動物の鳴き声に近い。しかもなんか、悲鳴っぽい?
最後に掬った水を飲み干して鳴き声の聞こえる方へ若干早足で向かった。
するとそこにはでかい恐竜の屍の4分の1くらいの大きさのミニティラノサウルスが怯えた表情で追い詰められていた。
背後の木が邪魔でこれ以上後退できず、かといって目の前の敵に背を向けて逃走しようものなら一発でアウトという危機的状況。
そしてミニマム恐竜を追い詰めているのは……
「またお前か」
蜘蛛の巨大生物だった。
蜘蛛との遭遇率が異常なんですけど。全っ然嬉しくない。
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