第73話「誰かな?何かな?」
とりあえず適当に森の中を探索する。
巨大生物って言うくらいだからそれなりにでかいだろうし、すぐ見つかるだろう。
「うわぁぁぁっ!?」
「スキュラムだ!兵士呼んでこい!!」
しばらくのんびり歩いていたらどこからか悲鳴が聞こえた。
声がする方に足を運ぶと、この世界に来て最初に目にした蜘蛛野郎と瓜二つの巨大生物とそいつに襲われている真っ最中の人達がいた。
早速ビンゴ。
ちゃっちゃと終わらせようと足を踏み出したが……あれ、ちょっと待てよ?
巨大生物に襲われてる人達を助けたら、その後どうなる?
日本にいた頃を思い出せ。そんなつもりは欠片もないのにうっかり人助けしてしまったときのことを。
例えば偶然見つけた不治の病を治すことが可能になる遺伝子を発表したとき。
その病にかかっていた患者の多くが希望を胸に感謝し、挙げ句神様か何かみたいに崇められた。
例えば警察が手をこまねいていた凶悪連続殺人鬼を偶々取っ捕まえたとき。
警察には表彰され、被害者の身内から捕まえてくれてありがとうと何度も頭を下げられた挙げ句警察官になる気はないかと本気で勧誘された。
他にも沢山ある。別に誰かのためだとかご立派な理由はなくて、偶々、偶然、誰かを助ける結果になったってだけの話なのに、周りが大袈裟に騒いで担ぎ上げたのだ。
もうあんな面倒な事態は御免被る。
そうならないためには素性を隠すか、或いは姿を見られずやり過ごすか……
「念には念を……っと」
羽織っていた黒いカーディガンで頭をぐるぐる巻きにして固定。目元だけ隙間を作る。
中はタンクトップだから風が吹くと少し肌寒く感じるけどまぁいいや。
剣を抜き放ち、枕之助を脇に抱える。枕之助は最早標準装備だ。不格好?構わんさ。
ひょいっと木の幹に飛び乗り、巨大生物の様子を確認。襲われてる人達はなんとか応戦してるけど頼り無さげ。多分1分も持たない。
「迅速に、且つ秘密裏に。私だとバレないよう細心の注意を」
神経を研ぎ澄ませて巨大生物をロックオン。
片手には剣、もう片方には枕之助を抱え、木の幹から勢いよくジャンプした。
木々をすり抜けて巨大生物目掛けて突進。物凄くスピードを出したせいで襲われてる人達には誰かが真横を通ったという認識すらさせず、デカい蜘蛛野郎を縦に真っ二つに切り裂いた。
瞬時にその場を離れ、再び木の幹に着地。
「お、おい!スキュラム倒れてるぞ!?」
「誰がやったんだ……?」
応戦してる途中で、しかも自分らの方が押され気味だったのに、いきなり真っ二つになって血飛沫上げたら誰だって驚くよね。
よかった。私の存在認識されなくて。
おーおー戸惑ってる。せっかくだしそのまま自分達の手柄にしときな。
真っ二つになり息絶えた蜘蛛野郎とおろおろしてる人達を背に、適当な方角に木から木へと乗り移って移動する。歩くと知り合いに出会すかもだし、巨大生物からの攻撃にも気づきやすいからね。
その後の彼らの会話は残念ながら耳に入らなかった。
「俺、一瞬だけ見えた……黒くて丸い物体が真横通ったんだよ。そしたらこいつが真っ二つに……」
「黒くて丸い物体?そんな種族この森に住んでたか?」
「長く森に住んでるがそんなやつ見たことも聞いたこともねぇぞ」
「でもこいつを倒してくれたってことは味方……だよな」
「影妖精の仕業か?黒くて丸い物体ってぇとそれくらいしか……いやでも影妖精は人助けなんざしねぇ種族だし」
「……まさか、森の守り神様が?」
「おお、そうだ!そうに違いない!それしか考えらんねぇよ!」
「守り神様、儂らを救って下さりありがとうございます!」
その後、ひとりでに巨大生物が薙ぎ倒されていくという奇妙な出来事を何人も目撃し、そして同時に黒くて丸い物体が瞬間的に目撃され、私の知らないところで『暗黒の守り神が森の民を救った』という噂が瞬く間に広がった。
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