第63話「親子と私と農業と」
「天誅……!」
初夏の暑さがふわりと包み込む中、冬のような冷たい空気を纏って小人親子にラリアットをかます。言わずもがな、枕之助も同伴だ。
「ぐぇっ!?」とカエルが潰れたような声を上げて吹っ飛ばされた二人。
「おっ、おいミノリぃ!いきなり何すんだよー!」
「嬢ちゃんひでぇよ!小さい種族に対するいじめか!?そうだな?そうだろ絶対!!」
火を吹きながらぶーたれるアドルフとぎゃーぎゃー騒ぐデュークを冷めた目で見下ろし、畑を顎で差し示す。
「畑仕事、こんなんでいいって思ってるわけ?」
「おうバッチリ!」
「バッチリ!じゃねぇだろ赤チビ」
赤髪小人・アドルフの頭を軽くチョップした。「ええ?なんだよミノリー」と頭を擦りながら問うアドルフを白い目で見る。
「そこにいる小さくて黒い物体はなんなのかな?」
「…………あっ」
「水少なすぎ。表面だけ水が浸透しても意味ない。つーか畑は水やりしなくても大丈夫だったはず。雨だけで充分育つって本に書いてあった」
「えっ!?そうなの!?」
「あんたら畑仕事何年やってきてる訳?ど素人にも程があるでしょ」
「1年くらい前かな?けど本来の大きさとは程遠いんだよなぁ。収穫しても、ぜーんぶちっこいの。だから全然売れないんだー」
「確かにそうだな。でも俺らにはちょうどいいサイズだぞ!まっずいけど!」
「言えてるー!」
枕之助を股に挟んだ直後二人の頭を鷲掴みし、おでことおでこをゴチーンッ!とこんにちは。揉んどりうってる小人達に冷ややかな目線を送る。
「…………仕事ナメてんの?」
思ったより低い声が出た。初夏なのに雪が降りそうな寒さがこの場を支配した。
小人親子が抱き合って小鹿のようにプルプル震えていた。
「大体、畑仕事ならブラッドに聞けばいいじゃん。同業なんだから」
「あいつは土を操って作物の成長速度を調節してるんだよ。水1滴垂らすだけで充分調節できちゃうわけ。俺らとは根本が違うから相談なんて無理ー」
大地の妖精ってのは便利やね。
「仕方ない……二人とも、農業の知識を1から叩き込んであげる」
「ちょちょちょ、待った!!嬢ちゃん、そんな細腕で畑仕事なんてできる訳ないだろ?嬢ちゃんこそ素人じゃねぇか!」
「畑じゃないけど家庭菜園ならやったことあるよ。だから農業の一通りの知識はここにみっちり詰まってる」
ここ、と自分の脳みそを指差した。
デュークが信じられんと言いたげに目を見開いた。
「はぁ!?嘘だろ!?服飾の仕事してたんじゃねぇのかよ!!」
嘘じゃないんだけどなぁ。
まぁいいや。信じようが信じまいがどっちでも。害虫に侵されてない綺麗で旨い野菜を作るためだ。
作物の収穫までかなり時間をかけてしまうが、その分この二人の頭に農業豆知識を片っ端から詰め込んでやろう。
「あ、そいやここあんまり雨降らないから定期的に水やりしなきゃだね。水やりするときは土の奥深くまで浸透するようにたっぷり水分を含ませてね。あと、害虫だけが敵じゃないよ。自然に淘汰されないように工夫しなきゃ」
小さな虫をぺぺぺぺぺッと畑の外に弾きながら説明していく。素手ではない。足でだ。素手で虫なんか触れるかっつの。軍手があれば良かったなぁ。
土には一切触れず、虫のみ足で弾くという器用なことをやってのけた私に小人親子の目が点になった。
「アドルフ。燃やして」
「ら、ラジャー!」
私が指示した通り害虫の山に火を吹いた。アドルフが手抜きしながら害虫駆除してたときとは打って変わって害虫が一匹も見当たらない畑を見回し、困惑するデューク。
「あんた達に拒否権はないよ。害虫入りの小さくてまっずい野菜を食わされるなんざごめんだからね」
じろりと睨めば二人揃って明後日の方向に顔を向けた。一応自覚はしてたのね。そうじゃなかったら尻ぶっ叩いてるよ。
でも……そうか。この二人でさえまずいと宣う野菜を見事調理して奇跡の味を出してるのかアレンは。すごいな。
てか、なんでここの野菜買ってるんだろ。他から買ったほうが絶対いいのに。
「なになに?ミノリちゃん、今度は何すんのー?」
客がいなくて暇なのか私達のやりとりを傍観していたクラークが割って入ってきた。
「ちょうど休憩だから様子見に来れば……何があったんだよ?」
怒ったときのアレンよりもヤクザ面なブラッドがクラークの後ろからぬっと現れて一瞬びくっとした。いきなり現れるのやめてほしい。その顔面凶器どうにかならないのか。
「いやぁ、なんかミノリちゃんが悲惨な畑を見て学習能力のない二人のために無謀にも何かやってあげようとしてるんだよ。優しいよねー」
言葉の節々に棘が散らばっている。
ブラッドは彼の吐いた毒に苦笑し「ミノリ、大変だろうがそいつらのこと頼むぜ。俺じゃ色々と勝手が違うからよぉ」と笑って私を見やった。
ギラッと鋭利な刃を研ぎ澄ませたような目で獲物を今か今かと狙うハンターのように危ない笑みを作ってるように見える。いや、もしかしたら生き物をkill youするのが大好きな殺人鬼がトチ狂った目で幸せそうに表情を綻ばせてるようにも見えるかもしれん。
どっちにしろ怖い笑顔に変わりない。
こくこくと頷いてさりげなく距離を取った。
ブラッドから小人親子に視線をチェンジし、両手の指をバキボキ鳴らした。
「覚悟しな、野郎共」
「あ、姐さん……!!」
誰が姐さんじゃい。
「さて、じゃあ早速農業講座を…………ふぁぁぁっ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「その前におやすみなさい」
「農業講座は!?」
私が起きてからね。
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