第62話「変わる日常」

エイミーが空中販売しだしてから早数日。


店はそこそこ繁盛している。売り上げが伸び悩むことも今のところない。


海の中にある元のエイミーの店は正式に閉店するとのこと。何人もの常連さんが残念そうにしてたので時間のあるときに海でも商売する予定らしい。彼女がやりたいことならば私が口を挟むつもりはないが、無理しすぎて倒れたりしないようにね。


今までは宝石や金属を使ったアクセサリーばっかりだったが、手直ししたものの中には布を使ったものもあるので売れ残った商品は地下の服飾部屋に置いとくことになった。


いちいち窓の外から私に地下に入る許可を取りに来るエイミーに玄関の鍵と地下入り口の鍵と服飾部屋の鍵を渡していつでも使っていいよと言っておいた。不用心だなんだと言われたがエイミーなら信用してるからと言ったら照れ笑いしながら受け取ってくれた。


単に幸せタイムを妨害されたくなかったから言っただけの台詞にそんな嬉しそうにされるとなんだか罪悪感がちょびっと沸いてくるが気付かないフリ。


エイミーが空中販売してるのを目撃したラクサ村の住人は私がエイミーに協力したことをクラークがチクったらしく、寝ること以外てんで興味を示さなかったのに以外な特技があったんだな!という反応をされた。


特技ってほどではないんだが、訂正するのも面倒なので放置。


そして私もここ数日で睡眠時間を削ることに成功し、朝起きてから2時間ほど目が冴えてる状態である。以前は起床、のちに食事、即爆睡、の繰り返しだったがかなり進歩したと言えよう。


睡眠時間削るのはすっっっごい嫌だけど、チェルシーとクリスと遊べないのが想像以上に堪えてるようで、また二人と遊べるように頑張ってるのだ。


「へー、お前なりに努力してるんだな。あのぐうたら娘がよくぞここまで進化してくれた……!」


「突然の涙」


クラークがアレンに一通り説明したら翌日、朝食の席にて同居人として嬉しいわ!と半泣きされた。


そんな感極まる出来事なのかしら。


「いつもいつも食っちゃ寝を繰り返すだけの生き物としてどうなんだって言いたくなる生活態度だったからすげぇ心配してたんだ。チェルシーが連れ出すようになっても隙あらば寝ようとしてたらしいし、悪戯ばっかのチェルシーもたまには役に立つな!」


「世はそれをニートという」


キリッとして言ったらすぱぁんっ!と頭をぶっ叩かれた。言葉の意味は分からなくともろくでもないワードだと察したのだろう。


「食器片付けとけよ!行ってきます!」


「あいよ。いってらー」


本日もアレンは仕事に追われている。朝食を摂ったあとすぐに颯爽と家を出て行った。


彼に休日というものはあるのだろうか。同居しだしてからそろそろ1ヶ月になるが、彼が仕事に行かなかった日は1日もない。ちょっと心配になってきた。役人ってのはとんだブラック企業だな。


「やることないなぁ……」


ブラックだろうがホワイトだろうが仕事は仕事。私が口を出すのはお門違いってもんだ。なので何も言いません。


というかすっごい暇。寝る以外にすることなかったし、特別やりたいこととかもないし、チェルシーとクリスはとっくに遊びに行ってるだろうし、他の人は仕事してるだろうし。起きてても何をすればいいんだ。


自室の窓枠に凭れて頬杖をつき、意味もなくぼんやりと外を眺める。日光が容赦なく照らしてじりじりと暑くなる。


私がこの世界に来たのが夏になる少し前だから、今はちょうど梅雨の時期かな。でもあんまり雨降らないよなぁ。向こうとはお天気事情が違うのかな。


ふと視線を感じて赤い屋根の家の方を見てみると、クラークから商品を受け取った見知らぬ中年男性がこちらを指差して何か言ってるのに気付いた。


口の動きを確認してみる。


「こんな立派な家、いつ立てたんだい?」


「いきなりぽんっと現れたんですよー。まるで魔法みたいに」


「はははっ!面白いこと言うなぁ」


大体そんな会話をしていた。


よその村から訪れた人から今のような話を振られるのはこれが初めてじゃない。チェルシー達と日中遊んでた時期にちょいちょい耳にした。


クラークから聞いた話によると、私の家が突然現れた日から毎日のようにこのデカい家のことで話題を振られていたようだ。


別に私は構わないけどね。注目浴びるのは慣れてるから。


物珍しそうに我が家をまじまじと眺めたあとつい今しがた買ったばかりの商品を掲げてぺこりと頭を下げ、ラクサ村の方へと歩いていった。


クラークの方を見てみたらぱちっと目が合う。にこりと紳士な微笑みを向けて手を振ってくれたので私も手を振った。


そのとき視界の端に映ったのは小人親子の畑。二人して汗水垂らして作物の世話をしている姿は働き者だ。


クラークから視線をずらして小人親子を観察してみる。


デュークが水撒きをして、アドルフが虫に食われたりしてないかチェックしているようだ。デュークはアル中だけど仕事中だけは酒を持ってない。当たり前だがな。


……けど。デューク、水の量少なすぎ。表面しか浸透しないから作物が育たないんだよ。アドルフも、土遊びしながらやってるから見落としちゃうんだよ。ほらそこ、虫が葉っぱ食ってるじゃんか。


出荷するんでしょ?売るんでしょ?人様の口に運ばれる大事な作物をぞんざいに扱うなんて農業の神様から天罰下るよ。


それだけじゃない。アレンも小人親子の畑からとった作物を使って調理することが多いんだ。万が一私の食事に虫が混じってたらどうしてくれる。埋めるぞ。あんたらを。


駄目だ。見てられない。


玄関まで行くのが面倒なので窓を開けて飛び降りた。


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