第61話「真っ直ぐな彼女」

それからは目まぐるしく時間が過ぎていった。



この世界には多種多様な種族がいるということで、それを踏まえて商品を改良した。空に浮遊して売るので鳥などの飛行種族用のを重点的に。


小物をばらして工夫したり、生地と合わせたり、とにかくやれることは何でも挑戦した。


エイミーも私も比較的作業が早かったからか結構な量があったはずなのに日付が変わる前に終われた。作業スピードが遅かったら数日かかっただろう。


久々の細かい作業で、やりだしたら止まらなくなってしまった。ご飯を食べるのも忘れてひたすらアクセサリーと睨めっこ。エイミーも似たり寄ったり。


「作業慣れてるわね。もしかして以前は服飾のお仕事してた?」


「んー……そんなとこかな」


「ミノリちゃんはこういうお洒落なもの身に付けたりしないの?絶対可愛いわよ」


「めんどくさい。こうして見てるだけで充分」


「似合うと思うけどなぁ……」


そうは言われても、めんどくさいもんはめんどくさい。


それに、こういうのは着飾りたいって意思を持ってる人が身につけるからより輝くんだよ。可愛くなりたいだとか自分に自信をつけたいだとか色々あるけど、私は野郎共にモテたいとも思わないし、これっぽっちも自分に自信がないネガティブ女でもない。お洒落に無頓着な人が身に着けても可愛さが半減するだけだよ。


ちらほらと会話しながらもほぼ無言で作業を進め、日付が変わったころに解散した。


私としたことが夜更かししてしまった。なんてこった。枕之助を長時間待たせてしまった。ごめんよ枕之助。ご飯と風呂を済ませたら速攻ベッドに走るからね。


エイミーを見送り、普段よりもでっかい欠伸を溢しながら地下室の入り口の鍵を閉める。


この下にあるのは両親のガラクタ部屋だけじゃない。私にとって、万が一お金が底をついたときに備えた命綱と呼べるものもあるのだ。ここだけはしっかり鍵をかけます。


鍵を元の場所に戻して、冷蔵庫に眠ってるアレンの絶品手料理をチンして食べる。今日退院することを伝えたら事前に作り置きしてくれたのだ。ありがたや。


ささっと風呂も済ませて、風呂上がりに濡れた髪をがっしがっしと男っぽい雑な手付きで拭いていたとき、風呂場の扉が開いた。


仕事帰りでお疲れモードのアレンが防具を中途半端に脱いだ状態で私を視界に入れた瞬間固まった。


「あ、おかえり」


毛先ほども動じることなく服を着る。


「きゃああああああ!!!」


1拍遅れて悲鳴が反響した。私ではない。


だからさ、なんでアレンが悲鳴上げるの?しかも妙に女子力高い悲鳴。


裸体なんてただの肉塊だと前に教えたのに。


「服着ろ!!」


「着た」


「お前マジで恥じらいっつーのがねぇな!少しは隠せよ!!」


「必要性がない。服着れば済む」


「そういう問題じゃねぇぇぇぇ!!」


顔を真っ赤にしながら背を向けた。意外と紳士なとこもあるのね……と感心したが服を着たあと防具を投げつけられた。かたい感触が頬に伝わった直後走る痛み。アレンの暴力がとても久しく感じるわ。


ひりひり痛む頬を擦り、枕之助を抱いて欠伸する。アレンは私が夜遅くまで起きてるからか不気味なものでも見るかのような目で見てきた。大変失礼な態度だが妥当な反応だろうな。


「お前がこんな時間まで起きてるなんて珍しいな。つか初めて見た。お前夜更かしできたんだな」


「たまには……こういうことも、あるよ……ふぁぁ」


うつらうつらして頭がかくっと傾くと「さっさと寝ろ」と廊下に投げ出された。……別にね、女子扱いされたいとは欠片も思わないけどさ。これはあんまりじゃないですかい。


「乱暴さに……磨き、かけて…どーする……くぁっ」


本格的に眠たくなってきた。いやずっと眠気はあったんだけど、集中力が切れたあとは眠気が倍に膨れ上がるんだよ。


何度も欠伸を溢し、時には壁と額がごっつんこしながらもどうにか自室のベッドに倒れ込む。枕之助を抱えながら死んだように深い眠りに堕ちた。




―――――


―――――――――



翌日。


熱に浮かされてたとき、カミラにカーテンを開け放たれて眩しくて起きるの繰り返しだったが、体調を崩す前と同じくアレンの手料理の匂いで目を覚ました。


夜更かししても私の身体はアレンの手料理によって起床するのか。新たな発見。


約1週間ぶりにアレンと朝食を摂った。


昨日の風呂バッタリ事件についていまだにねちねち小言を言われたが完璧無視。そしたらフォークが飛んできた。華麗に避けたつもりが膝の上の枕之助に当たった。


アレンの顔面をフルボッコにして見るに耐えない姿にし、トドメに顔中落書きして紐で縛り上げた。枕之助に傷が残ったらどうしてくれる。


本当なら窓の外に吊し上げるところだったけど、エイミーが窓をノックしてたので部屋の隅っこにぽいっと放った。


窓を開けて身を乗り出せば、途端に容赦なく主張する太陽。最近じわじわと暑くなってきてるからもうすぐ夏になるんだな。まだ朝なのに汗ばんできた。


「おはよ。もう出勤?」


「おはようミノリちゃん。ええ、今からよ」


クラークからもらった空飛ぶ絨毯と商品が入ってる入れ物を抱えてふわふわと浮遊するエイミー。


「ミノリちゃんのおかげだわ。本当にありがとう」


深々とお辞儀するエイミーに首を横に振る。


「私はただ手伝っただけ。商品が売れるか否かはエイミー次第だよ。私にできる範囲で地盤は固めたんだし、売れてくれなきゃ困るけど」


「それはもちろん努力するわ!売り上げの何割かはミノリちゃんに渡すつもりだし」


「お金目的で手伝ったんじゃないし、別にいいよ」


そう言っても頑なに首を縦に振らないのでこちらが折れた。律儀だなぁ。


私が勝手に大事にしたんだから、失敗したら私に罪擦り付けて責め立てられてもおかしくない。けど彼女はきっと誰かを責める汚い部分は持ち合わせていないだろう。


そんな綺麗で真っ直ぐな心を持つ彼女が成功しない訳がないのだ。



はじめは慣れない空中販売に手探り状態だったけれど、時間が経つにつれて立ち寄る客が増えていったのを遠目で確認して内心ほくそ笑む。


たまには労働も悪くない、と思いながらベッドに潜り込んだ。


その日は何故かいつもより気持ちよく眠りにつけた。

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