第60話「全ては爆睡するために」

え、と声を漏らしたエイミーに畳み掛けるように矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。


「商品はモノによっては改良できる。さっき魚が空を泳いでたから魚用のはそのまま売ってもいいし、他種族でも身に付けれるように改良すればもっと売れる。巨大生物の脅威もない。空だから移動自由。売り上げに伸び悩んだときは遠出もできる。うまくやれば地上に降りて売ることも可能。……どうかな?」


思いもよらぬ私の発案に一瞬静寂が訪れるも、次の瞬間には困惑と動揺と歓喜が入り交じった声で興奮気味に私の肩を揺らしたエイミー。


「す、すごいわ!そんな発想微塵も思い付かなかった!でも私、1日中飛びっぱなしは無理よ?」


「その辺も含めて考えてる。とりあえず私の家に来て。詳しく話し合おう」


なにがなんだか訳分からん状態のクラークを完全放置して我が家へ。


「あれ?ミノリちゃんの部屋じゃないの?」


調理室のそのまた奥へと進む私に怪訝な表情をするエイミー。調理室の奥の部屋は昔使用人達が休憩所として使ってた部屋だ。


そこには各部屋の鍵が厳重に保管されている。


うちは金持ちだから、強盗とかの犯罪に見舞われることもちょいちょいあったんだ。だからこの家のありとあらゆる鍵は指紋認証と声紋認証の二重ロックで守られてる。一人暮らししだした頃からその役割を果たしてないけどね。だっていちいち鍵取りに来るのめんどいもん。


そしてここには私が入ったことのない隠し扉や地下室の鍵も保管されている。


「うちの両親ね、多趣味だったんだ。おまけに収集癖もあってガラクタがたーっくさんあるの」


母いわく「趣味の宝物庫」、父いわく「コレクションルーム」だがな。私にとっちゃ単なるガラクタ部屋だ。


二重ロックを解除して地下の部屋の鍵を片っ端からひっ掴む。


「でもそのガラクタも再利用できるなら利用しない手はないよね」


玄関まで戻り、螺旋階段の下の鍵穴に鍵を差し込む。がちゃりと音がするのと同時にスライドし、地下へと続く階段が姿を表した。


驚愕してるエイミーの手を引き中へと促す。


「エイミーの飛行時間問題、商品の幅、その他諸々話すにはここがうってつけでしょ」


階段を下りて地下1階のとある部屋の鍵を開ける。あちらこちらに装飾が施された可愛らしい扉だ。


ぎぃぃぃっと重厚な扉が開くと、そこには色とりどりの生地や糸、しまいには宝石まで備わった、まさに服飾の仕事部屋のような空間が広がっていた。


「わぁ……すごい……」


目をキラキラ輝かせてまじまじと眺めるエイミー。職業病なのだろうか、私が何か言う前にさっと中に入り小物や宝石を手に取ってぶつぶつと独り言を呟いている。


「これ、ネックレスにしたら良さそう……こっちはブレスレットの繋ぎにして……ああこれは髪飾りにいいわね……」


「楽しそうなところ申し訳ないけど、仕事の話しようか」


「あっごめんなさい!つい」


隅っこに置かれたお洒落で小さな丸テーブルと椅子に二人向かい合って座った。


「改めて、ここすごいわね。お母様の仕事部屋とかかしら?」


「言ったでしょ、多趣味だって。うちにある服や小物はほとんど母親が趣味で作ったもの。それ以外は高級店のオーダーメイド」


「こ、これが趣味……?随分凝(こ)ってるのね」


「こだわりが凄まじかったからね。服飾関連ならここになんでも揃ってるから好きに使っていいよ」


「えっ!?そんなの申し訳ないわ!」


「使ってくれないと私が困る。ここ、いつでも来ていいからね」


はいこの話は終了。じゃあまずはエイミーの飛行時間問題といきましょうか。


「一度にどんだけ浮遊できる?」


「うーん、頑張っても四時間弱、かな」


「ふむ。短いのか長いのか分からないけど、それなら休憩を挟んで午前と午後に分ければいけそうだね。あーでも商品どうしよう。店に並べるみたいに空に並べることはできないし……」


むむぅ、問題は山積みだ。


商品を身に付けて売る?いやそれだと潔癖の人とかは買わないよね。箱に詰めて売る?いやそれだと見映えが良くない。うーむ、良い案が思い付かない。


「空に浮かぶ魔法の絨毯とかあればなぁ」


ため息混じりにぼそっと呟いたそのとき、エイミーがぱぁっと表情を明るくした。


「それならクラークが持ってたはずよ!」


って、あるんかい!


ここなんでもありやね。すげぇわ。


早速クラークに会いに行った私達。今はまだ営業時間なので店の方に回り、クラークに事情を説明したら快く譲ってくれた。


「なんだ、さっきのはそういうことか。いーよ、あげる。他にも予備あるし、1個くらい無償でプレゼントしても大丈夫だから」


「ありがとう、クラーク。助かるわ」


何故かクラークがじっと私を見ている。何か面白いものでも見るような目だ。


「ミノリちゃんが人助けなんて、アレン嬉し泣きしそうだねー」


「それはない。てか人助けじゃないし。私がぐっすり気持ち良く寝るための準備運動だよ」


エイミーと一緒に地下の服飾部屋に戻る。クラークが残念そうな目をして「自覚してないんかーい」と一人突っ込みを入れてたことは知る由もない。


服飾部屋に戻り、空飛ぶ絨毯を広げてみるとかなりの面積があることを知った。これならエイミーも無理して飛行しなくて済む。


「エイミー、持ってこれる分だけ商品持ってきて」


「は、はいっ」


すぐにエイミーは商品をありったけ持って飛んできた。魚用と言うだけあって小さな装飾が多い。


「半分アレンジしようか。エイミー、弄ってもいいやつを手前に置いて」


「はいっ」


作り手の思い入れがあるものも中にはあるだろうから勝手に弄るのは気が引けるのでエイミー自身に選ばせた。


そして分け終えたところでエイミーに視線を寄越す。


「見事にアクセばっかだけど、服とかは作ったことないの?」


「作れるけど、小物を作る方が性に合ってるからそっちばっかりね」


良かった。作れない訳じゃあないのね。


それなら話は早い。


「んじゃ、いっちょやりますか」


枕之助を股に挟み、肩の下らへんまであるちょい長めの髪を後ろで縛れば準備万端。


久々の大仕事に腕が鳴った。

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