第58話「海と魚と商売と」

その後、丸1日安静にしていたらすっかり元気になった。もっと寝たかったのに……残念。


ラクサ村の住人達が仕事の合間を縫ってお見舞いに来てくれたことは少しびっくりしたな。こんな怠け者のために時間を裂いてくれて嬉しいやら困るやら。私なんか気にせず仕事を全うしてくれ。


チェルシーが散々謝り倒してくれたことにもちょい驚いた。いつも強引な子が眉尻下げてしょんぼりしてたらそりゃ許すに決まってるよね。


側にいたクリスが大きな目からぼろぼろ涙溢してたことにはぎょっとした。可愛い顔が台無しだ。泣き顔も可愛かったけどな。


アレンとクラークがお見舞いに来てくれた際に薬のお礼を言ったら「お前お礼が言えたのか」と心底驚かれた。失礼な。感謝の気持ちを言われ慣れてなくても自分で口にすることはできるのだ。


二人が時折何か言いたげにちらちら視線を寄越してたけど、結局何も言わなかったから私も気付かないふり。向こうが言わない限り私も聞く気はないのでね。


そんな訳で退院した。入院費はアレン持ち。あとで返さねば。でも換金しなきゃ使えない。ぬぅ、いつかはノクト国に行かねばならないか。


カミラに「もう来るんじゃないよガキ」と凄まれたが、多分あれは病人として来るなと言いたいんだろう。入院生活8日間でカミラの性格が大分わかってきた。素直じゃないお婆さんやね。


ちなみにカミラからは再三釘を刺されました。睡眠時間を一気に削るとまたぶっ倒れるから少しずつ削って身体を慣らせと。あい分かりやした。そもそも15時間も寝てたこと自体異常だと説教もされた。私にとってはそれが通常運転です。


もっと寝たかったってのが本音だけど、家に帰ったらアレンの手料理が味わえると思うと顔が綻ぶ。


ラクサ村への一本道をてくてく歩く私。ちなみに一人ではない。


「この道、よく巨大生物が横断するんだけど、今役人達忙しいみたいだから私がお迎えに来たの。頼りなくてごめんね」


水色の鱗が太陽光でキラキラ輝き、同色の髪がふわりと揺れる。童話の中の人魚姫のように美しい容姿の空飛ぶ人魚が私の隣をふわりふわりと浮遊していた。


「大丈夫。いざとなったらエイミーは私が守るから」


「嬉しいけど、病み上がりの人が何言ってるのよ。風邪ぶり返したらどうするの」


「じゃあ逆に聞くけど、巨大生物に鉢合わせたらどうするの」


「私逃げ足だけは速いのよ。ミノリちゃんを抱えて村までひとっ飛びするわ」


こんな細腕で人ひとり運べるのだろうかと疑問に思ったが本人が自信満々にそう告げるので言うのを控えた。


「そいや前から気になってたんだけど、エイミーはなんの仕事してるの?」


「ブラッドの家の近くに井戸があるでしょ?そこから海に行って商売してるの。主にアクセサリーを売ってるわ」


「へー」


美人なエイミーに似合う職種だ。


けど、商売先が海か。エイミーみたいな人魚が買うのかな。


「こないだは珍しくサケさんとアジさんがいらっしゃったわ」


あ、魚もご来店するのね。


「ただねぇ……サケさん達が言ってたけど、海の情勢も荒れてて、今の店の場所に集合住宅が建つみたいで、移動しないと海の王様に咎められちゃうの。井戸から一番近い出口付近だから便利だったのになぁ。このままだと商売できないわ」


海に王様なんているのか。つーか海の中に建物建設できるのか。すごいな。


「地上で店オープンすれば?クラークみたいに」


「うちの商品、海の住人向けのアクセばっかりだから無理よ」


「さっき出口って言ってたけど、複数あるの?もしそうなら他の出口付近に移動すれば解決するじゃん」


「他の商売魚達が占領しちゃって……」


海にも商売人が沢山いるのね。


……は?魚?魚が人間語を喋って商売してるのか?「HEYネーチャンこれ安いよー買っていきなヨ☆」とか言っちゃってんの?魚が?


尾ひれを可愛くふりふり揺らしながらハチマキ頭に巻いて「へいらっしゃい!」とか言ってるの?……魚が?


「…………ふ、」


やばい。ちょっとツボった。


「ミノリちゃん?」


「ああ、うん、どこも大変だね。店移動するなら場所考えなきゃだけど、その様子だと良い場所は見つかってないんだね」


「そうなのよねぇ……何か良い案がないかしら」


そうして話してるうちにラクサ村到着。巨大生物に襲われなくて良かった。


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