第57話「暴君やんけ」
突如窓際のカーテンが開き、降り注ぐ太陽光が眩しくて思いっきり顔をしかめた。
「いつまで寝てんだい。叩き起こすよ」
太陽光が眼球に刺さって叩き起こされるまでもなく目が冴えましたけど?
重い身体をゆっくり起こし、目を擦る。
カーテンを開けた張本人・カミラに恨みがましい目を向けるも逆に睨み返されて目を逸らした。眼力だけならブラッドやアレンより遥かに怖い。
「熱、まだある?」
「微熱だよ。これでも大分下がったけどね。自分の身体なのに気付かないのかい?」
「私感覚バカだからあんまり分かんない」
「よく今まで生きてこられたね」
「どーゆー意味?」
風邪引いたのなんて何年ぶりだろ。両親が亡くなってからは一度もなかった気がする。
でも昔、風邪引いたときは毎回死線をさ迷う高熱だった記憶がある。普段体調崩すことがないから参ってたなぁ。
「あんな高熱の患者は初めてだよ。あんた、7日も寝込んでたんだよ」
「わお」
そんな長いこと寝込んでたのね。
「原因は主に疲労と急激な日常生活の変化による心労だね。あの馬鹿猫にはたっぷり灸を据えてやった」
「程々にしてあげて。チェルシーも悪気があった訳じゃないんだし」
ただ単に遊び相手が欲しかっただけだと思う。
ラクサ村の人達は仕事で多忙な日々を送ってるからよその村で悪戯をしちゃうんじゃないかな。
クリスと遊ぶようになってからはあんまり悪戯しなくなったし。
怒ってないといったら嘘になるけど、チェルシーとクリスと遊ぶ時間は悪くはなかったから許す。
カミラはあまり怒った様子でない私に短いため息を吐いた。
「子供には甘いね」
「子供に、というよりクリスに、かな。あのえんじぇるスマイルには敵わない」
馬鹿猫にも充分甘いよ、と舌打ちしたあとずいっと何かを差し出された。ぶっきらぼうに出されたそれはアレンの料理に負けず劣らず美味しそうな匂いを放つ卵粥だった。
「ほら食いな。朝飯だよ。残したらはっ倒すからね」
「理不尽。……いただきます」
あ、結構美味しい。アレンの料理と同等に美味だ。
「アレンとクラークに感謝しなよ。あんたの家から薬持ってきてやったんだから」
「薬…………」
ふと手が止まる。
はて。薬なんてどこにあったのだろうか。普段体調崩すことなんて全くないからどこにしまってあるのか知らないんだけど。
首を傾げてうーん?と考えるも、まあいいかと思考を放棄。アレンとクラークが運良く見つけてくれたのね。次会ったときにお礼言っとかないとな。
「……あんた、前にこことは違う世界から来たって言ったね」
「んあ?」
唐突に話題振られたから間抜けな声になっちゃった。いきなりなんでしょう。
向かいの椅子に座るカミラがお茶を啜りながらちらっと私を一瞥する。いつもの探るような視線じゃなく、何か考えるような目で見られた。
「私は昔、旅医者だった。自分の家を持たず、世界中を旅して怪我人や病人を看て回ってたもんさ」
「はあ……」
「辺境の地に流れたことだって一度や二度じゃない。……だが、こんな文字は見たことない」
テーブルの上に放り投げるように置かれたのは白いパッケージ。昔、風邪を引いたときに飲んでた薬だ。不思議とこの薬じゃないと効かないんだよね。
「この文字は世界中のどの地域にも見られなかった。これは、この世界の言葉じゃない」
そらそうだ。地球の日本語の言葉だからな。
「まだ半信半疑だが、あんたが別の世界から来たってのは嘘じゃあないようだね。今まで疑って悪かったよ」
「ううん。普通に考えたらそんな話冗談としか思えないもんね」
あっさり信じたら逆に心配するわ。
「あんたが何者なのかも少しずつ掴めてきたよ」
「めんどくさがりで怠け者な爆睡女だって?照れるなぁもう」
「褒めてないよ。それもそうだが、子供に弱いお人好しだろう」
「what??」
聞き間違いかな。
私はただの自己中爆睡女だ。他人に優しくする義理なんぞないっつー精神のクズだぞ。カミラこそ医者が必要じゃないか。頭診てもらえ。
「まぁいい。とにかく、今日も飯食ったら寝な」
「やったー」
チェルシーに邪魔されていた幸せタイムが思わぬ形で戻ってきたことにとても嬉しくなっている私。
病で寝込んでるくせに喜ぶんじゃねぇ的な視線が前から突き刺さるけどスルー。
あ、そう考えたら治りたくない気持ちがむくむくと……
「わざと風邪長引かせてみな。埋めるからね」
「スイマセン」
大人しく風邪を治すことに専念するのでそのヤ○ザ面止めて下さい。
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