第51話「お伽話みたいだね」

「あーあ、カミラ帰って来ちゃったにゃ。せっかく遊ぼうと思ったのにー」


私の隣にいるお団子ヘアのお婆さんを見つけ、口を尖らせて不満を溢すチェルシー。


カミラと呼ばれたお婆さんはチェルシーの発言を耳に入れるなりカッ!と目を見開いた。そしてくわっ!と大口を開けて怒鳴り声を轟かせた。


「また悪戯しに来おったか猫娘!!アタシの村にちょっかいかけるなと何度言ったら分かるんだい!?その頭は飾りかい、えぇ!?遊ぶならよそに行きな!」


間近で叫ばれたから耳がキーンてなった。煩いお婆さんやね。


「ハルバ村の方が面白い反応する人多いもーん」と悪戯っぽく笑うチェルシー。こんだけ言われてんのに全く反省の色が見えない。心臓に毛が生えたような子だな。


チェルシーから私へと視線を移し、ごほんと咳払いしたお婆さん。


「アタシはハルバ村のしがない医者、カミラだよ。改めて礼を言う。アンタがいなけりゃ村に被害が及んでたからね」


「私じゃなくてチェルシーに礼言いなよ。私はチェルシーに頼まれたからやっただけだし」


チェルシーに目配せして木にもたれ掛かる。顔が隠れるように枕之助をぎゅっと抱き締めた。


「そうかい。猫娘もありがとさん」


「にゃははー、照れるにゃー」


怒り心頭だった先程とはうってかわって、ほんの少し柔和な表情を浮かべるカミラ。だがすぐにまた私に視線を移動させる。


警戒して、何か探るような眼差し。


「で、お前さん。ここらじゃ見かけない顔だが、どこの誰だい?」


まぁ、見知らぬ人が自分のテリトリーにいたら当然警戒するよね。


ラクサ村の住人は家ごと村の入り口に出現した事実を目の当たりにしてるから私がよその世界から来たって言っても多少びっくりしつつもすんなり信じてくれたけど、他の村の人はきっとそんな馬鹿げた話信じやしないだろう。


でも警戒を解いてくれるように下手に嘘つくのもめんどくさいし、正直に話そう。


「私は……」


「話はハルバ村で頼む。ここの処理とかその他諸々で忙しいんだ」


他の役人達に指示を出していたアレンがこちらを振り返って言った。


アレン達役人の仕事の邪魔になるからとハルバ村へ移動した私達3人。チェルシーは村についた途端元気に走り回って村人を困らせていたがカミラが一喝して大人しくさせた。


チェルシーは子供らしく元気いっぱい。よくもまぁあんだけ走り回れるね。無駄に体力を消耗するのがそんなに楽しいのかな。理解できない。


「チェルシー!また悪戯しに来たのかー?」


「カミラがいるから遊べないにゃー」


「はっはっは!少しは大人しくしろよ!」


「大人しくしたら私の取り柄がなくなるにゃ!」


「それもそうだな!はははっ」


「甘やかすんじゃないよ!全くもう」


チェルシーが村人達と会話を交わし、カミラが怒声を張り上げ、時折村人達から見慣れぬ私に好機の目を向けられながら食べ物屋や武器屋とおぼしき店を素通りし、清潔そうな白い建物へと入っていった。


玄関入ってすぐ横に仕切りがあり、その中へと通された。


簡素なテーブルに二人掛けソファが2つ。観葉植物が隅に飾られ、壁には綺麗な色彩の風景画が掛けられているため地味すぎず、かといってとびきり何か可愛いものがある訳でもなく、落ち着いた心地いい空間だ。


「姓は綾瀬、名は実里。こことは違う世界から瞬間移動してきました」


「ふざけるのも大概にしな。捻り潰すよ」


嘘偽りなく正直に話したのに物騒な言葉を投げ掛けられた。やはり信じてはもらえないか。


「ホントだにゃーカミラ!北の入り口前にどーんっ!とおっきな家が突然現れて村中大騒ぎだったにゃ」


「夢の話をするんじゃないよ。今アタシは現実の話をしてるんだ」


夢と断定された。確かに夢みたいな出来事ですけども。


「んもー頭固いにゃー!アレンにも聞いたら分かるにゃ、嘘じゃないって!アレンが嘘下手なの知ってるはずにゃ!」


「あれは優しいからお前さんの夢の続きにつきあってやってるんだろ。仕事の邪魔してやるんじゃないよ」


「夢じゃないのにーーー!!」


悔しげに地団駄を踏むチェルシー。


駄目だ。埒が明かない。


「……別に、信じるも信じないもカミラ次第だけど。ラクサ村にいけば一発で分かるよ」


一日やそこらであんな馬鹿デカい家を建てれる訳がない。それに中はこの世界にはない物で溢れてるし、一目瞭然だ。


じぃっとカミラの探るような瞳を見据える。嘘ではない、と目で語った。


「…………ふん。生意気な目してるね」


でも、真っ直ぐな目だ。と付け加えたカミラ。まだ信じてないっぽいけど、真っ向から否定する気は失せたように見える。


「じゃあ質問を変えるよ。お前さんは何者だい?」


鋭い声色で尋ねられた次の質問にチェルシーが「なんにゃそれー!」と可笑しそうにケラケラ笑っている。私も質問の意図が分からず首を傾げた。


「姓は綾瀬、名は実里」


「名前を聞いてるんじゃないよ」


「人間」


「種族を聞いてるんじゃないよ」


「武術は一通りできる」


「特技を聞いてるんじゃないよ」


じゃあ何と答えれば?

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