第50話「早とちりで殺す気かい?」

目の前でごうごうと燃え盛る深紅の炎。奇跡的にも森には燃え移らなかったから良かったけど、ハルバ村とラクサ村を繋ぐ道が塞がれてしまった。いやこの場合私が塞いだと言った方が正しいのか?


まぁそこはなんとかなるでしょ。燃え盛る炎の城を避けてちょいと森の中に入ったら向こう側に行けるんだし。


でもこれ鎮火させないと苦情が来そう。特にアレンママから。


「みのりん助かったにゃ!これでハルバ村の平和は守られたにゃ!……でもこれ、どうするにゃ?」


私の横に引っ付いて一緒に森の中に入り、炎の城を指差すチェルシーに「どうしようね」と返す。本気でどうしよう。今すぐ大雨でも降ってくんないかな。


「チェルシー、雨降らせてよ」


「なんという無茶ぶり!」


「それかアドルフみたいにさ、こう、口からばしゃーっとできないの?」


「猫に要求することじゃないにゃ!みのりん頭おかしいにゃ!」


だってそれしか思い付かないもん。


炎の城を避けてハルバ村の方に移動した私達はこの炎をどうするか口論を繰り広げていたのだが、そのときちょうどハルバ村の入り口が騒がしくなってることに気付いた。


小さな人影が複数。段々とこちらに近付いてきている。防具を身に纏い、懐に剣を携えたガタイのいい厳つい男が数人と、ついさっき仕事で我が家を出ていった黒髪つり目の美少年だ。太陽の光が降り注ぐことでサファイア色の瞳がより一層輝いて見える。


先頭を走っていたアレンが炎の城を指差して後ろの人達に指示を出しているのが窺える。指示された人達は直ぐ様掌を炎に向けて魔法陣みたいなのを描き、そこから水を噴射したり、ドラゴンに変化して大口を開けて水を放出したりと消火活動に勤しんでいた。


順調に火が消えていくのを黙って見ていた私達だが、アレンがこちらに近付いてくるからかさっと隠れたチェルシー。腕を引っ張られて私も一緒になって隠れる。


一部始終を見てないから私達が元凶だと思われる可能性が高い。怒られるのは嫌だからとやり過ごそうとしたらしい……のだが。


「おい、そこにいんのは分かってんだよ。とっとと出てこい!」


ドスの効いた低い怒声にビクッと反応したチェルシーは観念しておずおずと木々の間から顔を出した。私も後に続く。


チェルシーの顔を見た瞬間般若になった。


「まーたーおーまーえーはーっ!!悪戯はほどほどにしろっつってんだろが!」


「いったぁっ!私じゃないにゃー!みのりんがっ」


「ああ!?」


チェルシーの頭に拳骨を食らわしたアレンが額に青筋を浮かべたまま私の方を見る。一瞬目を見開き、そしてすぐに私へとターゲットをチェンジ。


「初めて日中に外出たと思ったらこんな馬鹿なことしやがって!」


「あだだだだ」


頭を両拳でぐりぐりぐりぐり。地味に痛い。


「大勢の村人達に迷惑かかることすんな!そんで俺らの仕事増やすな!火遊びかなんかしてたのかよ!?通行止めしやがって!」


「ち、違うにゃ!巨大生物がハルバ村に向かってたからみのりんにお助け頼んだのにゃっ!」


慌てて簡単に事情説明したチェルシーを睨むように一瞥し、暫しの沈黙のあと私の頭から手を離した。そして呆れたようにため息を吐いた。


「そういうことか……なら最初からそう言えよ。怒って悪かったな。怪我は?」


首を横に振って怪我はないアピール。ほっと安堵の息をつくアレン。


「一応詳しく聞かせてくれ。巨大生物はどんなやつだった?」


「薄いピンク色のにょろにょろした顔のないやつにゃ」


「ミードルか……厄介なのに当たったな。ミードルは怪我を負えば負うほど小さくなって増殖し、攻撃性が上がる。よく無事だったなお前ら」


「みのりんが活躍してくれたおかげなのにゃ!」


そうこうしてるうちに消火活動は終わったようで、ドラゴンに変化していた者が人型に戻ってアレンに報告している。


それをぼんやり見つめていたら横から聞き馴染みのないしわがれた声が聞こえてきた。


「見事なもんじゃな。ミードルを塵ひとつ残さず滅してみせるとは」


意外と近くから聞こえて少しびっくりした。そちらを見てみると、チェルシーよりも背が低い、白髪のお団子ヘアの強面なお婆さんが消火が終わった場所をじっと見つめて独り言のように言葉を溢していた。


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