第37話「単純だな私」
ザク、ザク。
ガッ、ガッ。
木に切れ込みを入れ、そこから段々深く切っていく。木が倒れる方向を計算しながら徐々に削いでいく。
が、やる気が一ミクロンもない私はめっちゃスローモーション。亀よりおっそい。一人で目が覚めて起き上がるよりも非常にのろい。
ブラッドが三本目を倒した頃、私はまだ一本も切ってない状態である。
そんなだからアレンの怒りスイッチをバンバン押しまくっていた。
「もっとしっかり腕振り上げろ!なんだそのふにゃふにゃした動きは!?ちゃんと力入れろ!怪我だけはすんなよ!」
アレンママが喧しい。
「へいほーい」
「呑気に返事する暇あんならシャキッとしろ!あと手元見て作業しろ!危ない!」
私達のやり取りを聞いていたラクサ村の住人達。誰かが「今日もアレンは元気に母さんやってるなぁ」としみじみ言った。あれでデフォルトかよ。
ガッ、ガッ、ガッ。
黙々と、だが極めてのろい動きで作業を進めていき、ようやく一本目を切り倒した。ちなみにブラッドは五本目に突入している。
「お前もっとやる気出せよ。体力あるだろうが」
「なくはないけどやる気メーターバグってるんだもん。修理出さないと無理。てなわけで寝かせて」
「ただ寝たいだけだろ!」
そうですけど何か。
「ねぇアレン、ミノリちゃんってあれが通常運転なの……?」
「認めたくないが、残念ながらな」
「ミノリ面白ぇー!どんだけ眠いんだよ!あんだけ寝てたのに」
「ふにゃあぁ……みのりんの眠そうな顔見てたらこっちまで眠くなるにゃ」
「おおおい!倒れるなよ!?俺の貴重な酒が地面とこんにちはしちゃうからな!?」
「なんか重いと思ったら酒持ってたのにゃ、デューク!降りろにゃー!」
「うわわっ!?俺もいんだから揺らすなよー!」
なにやら若者数名とアル中小人が賑やかにお喋りしているが然程興味ないのでスルー。
切り倒した木は薪にして焚き風呂の足しにしたり火をつけて村の明かりにしたりするんだとか。
アドルフが吹く火は限界があり、よく持って数時間。なので夜に村全体を灯す火などは薪を活用している。そりゃ一日中火ぃ吹いてたら顎疲れるわな。
「君、死ぬまで火ぃ吹いててネ☆ボクらのために☆」とか言われたら私ならそいつ暗殺するわ。そんで証拠隠蔽して睡眠を楽しむわ。
「嬢ちゃん、もっとスピーディーに出来ねぇのかい?とっとと終わらせねぇと寝れねぇぞ」
カッ!!と目を見開き、斧を握る手に力を込めた。込めすぎてミシミシ音が鳴っている。
それはなんとしてでも阻止せねば。
寝るために働く。これ大事。
ブラッドの手から斧を奪い取り双剣のごとく構える。
「お、おいおい嬢ちゃん?俺の斧返してくれや。切れねぇじゃねぇかよ」
「…………大丈夫」
「何が!?」
大丈夫。一瞬で終わらせるから。
勢いよく地面を蹴って密集した木々に突進していく。両手に持つ二つの斧を駆使して忍者の如く素早い動きで木を薙ぎ倒していった。
一方の斧で半分ほど深く切り込みを入れ、もう一方の斧で一気に切りつける。一つの斧で一気に切るとどの方向に倒れるか分からない危険性がある。自分の方に倒れたら避ければいいが私の家に倒れたらアレン達が危ない。
アレンとクラークなら倒れぬよう支えてくれるだろうが、女子二人と小人親子は無理だろう。万が一に備えて倒木方向がズレるように考えながら素早く切り倒していく。
そうしてるうちに段々視界が拓けて、木々で見えなかった「ラクサ村」と書かれた簡素なゲートが姿を現した。
本当に目の前に建ってたのね、私の家。
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