第34話「個性しかない」

サラサラストレートで癖のない真面目な髪型に戻ったアレンと寝癖も直さずに枕之助を抱き締める私。


武装した男とよれよれの寝間着を着た女が二人揃って歩いている姿はなんともアンバランスである。


「あっ、やっと来たにゃ。おーい!二人ともはーやーくーっ!」


ぴょんぴょん跳び跳ねて手を振っている猫耳女子。ポニーテールがふわりふわりと舞い踊る。


猫耳女子が気付いたことで周りの人たちもこちらに気付き始めた。


「待たせて悪かったな」


「遅ぇぞアレン!もう全員揃ってんぞっ」


ハゲのおっちゃんがアレンの肩をバッコォンッ!と勢いよく叩く。骨砕く気かと問いたくなるほどの凄い音がしたのにアレンは平然とした顔で「だから悪かったって」と宥めていた。


「ミノリちゃん、昨日はごめんね。いきなり宴会もどきになっちゃって戸惑ったでしょ?」


先程の美少女人魚が浮遊して近付いてきた。


「私はエイミー。人魚とドラゴンのハーフよ。この村の中じゃ割りと常識人な方だから、何かあったらアレンか私に言ってね」


裏を返せばこの村に常識を持ち合わせたやつなんざほぼいねぇ、ってことか。


「にゃー!エイミーばっかずるーい!みのりん、私はチェルシー!猫族の血が濃いからこんなナリなのにゃー。末永くよろしくにゃーん!」


猫耳女子が私とベルの間に割って入る。


末永くって、あんたは私の嫁か。


猫耳女子ことチェルシーの肩に乗っかってる小人二人も各々私に話し掛けてきた。


「ワシはデューク!見ての通り小人族だ!ラクサ村イチの酒豪とはワシのことだ!酒瓶一日15本は消費するぞ!」


黒い短髪につり目と真面目そうだがその手には酒瓶が。顔が赤くなってる。日中も飲んでたのね。


飲み過ぎると早死にするよ。


「俺はアドルフ!親父みたいに酒は飲めないけど、特技は火を吹くこと!火を使いたいときは俺に言えよ。燃やし尽くしてやるから!」


先程の赤髪の小人が元気に大声で宣言し、ゴォッと真っ赤な火を吹いた。


更地にしたらアカンよ。


「よぉ嬢ちゃん!俺のこと覚えてるか?」


背後から声をかけられたので振り向くと、若干耳が尖ったハゲのおっちゃんが男気溢れる笑顔で私を見下ろしていた。


その問いにこくりと頷く。


「私が奪った弓矢の持ち主」


「間違ってねぇ!けど昨日名乗ったはずだがなぁ……まぁいいか。俺はブラッド。こう見えても大地の妖精だ。土は嫌いだけどな!がっはっは!」


妖精っていうと天使みたいな可愛らしい容姿の若い子のイメージだったけど、筋肉マッチョのハゲのおっちゃんの妖精もいるんだね。あ、よく見たら背中に小さな羽生えてる。マッチョだから全然可愛くないけど。


「これで一通り挨拶は済んだな」


なにやらクラークと話していたらしいアレンが私の隣に戻ってきた。が、その口から出た言葉に首を傾げた。


「昨日のウサ耳幼児は?」


朧気だけどなんとなく覚えてる。私にお礼を言った、あの可愛いウサ耳の男の子。あの子もこの村の住人なんじゃないか。


「ああ、クリスか。あいつ人見知り激しくて滅多に人前に出ねぇんだよ。昨日は無理に宴会に参加させたからな……当分は挨拶できねぇかもな」


確かに、宴会もどきのときも終始びくついてたもんな。私に話し掛けるのもかなりびくびくしてたし。


でも人見知り激しいのに頑張って私にお礼言ったってことだよね……


ちょびっとだけ嬉しい、かも。


「さて、ほぼ皆集まったことだし。昨日から勃発してる問題を解決しましょう」


尾ひれを揺らして手をパンパンと叩きわざと注目を集めたエイミーに視線が集まる。


「本当はお昼から取り掛かるはずだったんだけど、二人呼びにいったら爆睡してたから」


「そうだったのか。悪いな」


「えー!?そんなん明日からでもいーじゃにゃい!みのりんとお喋りしーたーいーっ!」


子供みたいに駄々を捏ねるチェルシー。肩に乗ってる小人親子が今にも地面に落っこちそうだ。必死に服にしがみついてる。


「お喋りはいつでもできるわ。我慢しなさい。今はそれよりもやらなきゃいけないことがあるでしょう」


猫耳女子を宥めた美少女人魚は私の家へと視線を移す。


「村の入り口、あのままにしておく訳にはいかないわ」




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