第33話「その反応は予想外」

頭をぶんぶん振って水滴を払うアレンの頭と枕之助をがしっと掴み、問答無用で洗面所に引き摺っていった。


全く、二人して私の部屋を水浸しにしやがって。枕之助が濡れたじゃないか。私の大切な相棒を傷付けおって。


「おいっ!乾かせろっ」


「枕之助を傷付けた罪は重い」


「濡れただけだろ!?なんで怒ってんだ?」


「私のボーイフレンドを泣かしたんだから怒るのは当然」


「枕に性別なんてないだろ何言ってんだお前!?」


ギャーギャー喚くアレンは放置して洗面所のどこかに置いてあるドライヤーを探す。どこだったっけ。母親しか使わなかったから場所が分かんないや……


だが適当に引き出しを開閉していたら意外とすぐ見つかった。


コンセントを刺してスイッチオン。ブォォォ……と勢いよく風が舞う。枕之助よ、今助けてあげるからね。


片手で大事に枕之助を抱えてもう片方の手でドライヤーを使用。風量MAXにしてマッハで乾かしているとアレンが驚愕の声を上げた。


「なっ……なんだそれは!?」


ドライヤーを指差したアレン。わなわなと震える指先にキョトンとするも、この世界にこういった科学が進化した文明の利器がないことを思い出して納得した。


説明しようと口を開きかけたそのとき、アレンの口から珍妙なワードが飛び出てきた。


「銃から突風が出てるぞ!竜巻でも起こすつもりか!?」


アレン。どんなにドライヤーが頑張ってくれても竜巻は起こせないよ。


竜巻起こしたいならお笑いバラエティ番組に出るような巨大扇風機使わないと無理だよ。うちにそんなものはない。


「アレン、落ち着いて。これはドライヤーっていって、髪を乾かす道具だよ。竜巻なんて起きないから安心して」


「ほっ本当だな!?巨大生物が村を荒らしに来たときと同じような惨状になったり村が吹き飛んだりしないんだな!?」


「しないしないしない」


たかがドライヤーにそこまで怯えられるとこっちも引くんですけど。


枕之助を乾かして股に挟み、続けざまにアレンの頭にドライヤーを向けた。びくぅっとアレンの身体が跳ね上がった。


「ちょ、やめっ……いやァァァ!!」


思春期の女子みたいな可愛い悲鳴を上げた強面の青年はドライヤーから身を守るべく両腕で頭を覆い隠す。その腕をひっぺがして無理矢理頭にドライヤーを向けた。


「そのままじゃホントに風邪引くからじっとしてて」


水分を含んでしっとりとしている髪を素早く乾かしていく。初めは生まれたての小鹿のようにプルプル震えていたアレンだが次第におさまり、されるがままになっていた。


まだ不安そうに眉を寄せているもどこか気持ち良さそうに目を細めている。


大分乾いてきたのであとは自然乾燥に任せていいかな、とドライヤーの電源をオフにした。


「ほ、本当に竜巻起こらなかった……」


「だからそう言ってるじゃん」


ドライヤーを適当な場所に放り、股に挟んで離さなかった枕之助を両手で抱き締めて「ほら行くよ」と促す。


来いと言われたので行かなくては。人魚さんのお願いを無視してまた眠りたい衝動を抑えながらアレンを連れてクラークの家の前へと向かう。


玄関を開けた先にはクラークの家の前に集うラクサ村の住人達がいた。



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