第124話 今日の仕事はお預けかなぁ……。


「神末」


 なんか知らんがどっかの会社の社長をしている家系らしい。


「オードバー」


 よく分からんが父親がデカいIT会社のCEOをしている家らしい。


「鹿目」


 聞いた話では神社の跡取り。


「アレックス・フォレント」


 海外の大学の教授一家、らしい。


「三木」


 ヤクザ。


「馬場」


 俺の知らない大物芸能人の孫だとかなんとか。


「新島」


 聞いたこともないような政治家の息子。


「 」


 由利亜先輩に「美しい」しか言わない狂人。




 以上が八人のプロフィール。


 特筆すべき所のないただのぼんぼん。


 それだけが特技とも言える坊ちゃん達だった。


「この中から一人を選ぶんですか?」


「そうだ。君の目利きで婚約者が決まれば由利亜も本望だろう」


 んな訳あるかあほ。


 横目で見れば、健康的に桃色に染まっているはずの唇の色が鈍い。当然だが、由利亜先輩にとっては一大事だ、この反応が妥当と言える。


 だが、何故俺をここに連れてくるまでに何か一言でもそれらしいことを言わなかったのだろう。


 そもそも、ここに来なければ今日、今、こんな状況にはなっていなかったはずだ。


 なのに何も言わなかった。


 机に肘をつき、少し体重をかける。


 乗りかかった船だ、少し考えてみよう。


「じゃあいくつか質問させてください」


 八人に向けて言うと、全員縦に頷く。


 異論は無いらしい。


「一つ目。あなた方は本当に、『鷲崎由利亜』を愛していますか?」


「そんなの当然だろ」


 神末が全員と目を合わせると口を開いた。


「君のように、ここ半年の関係ではない。僕たちは由利亜さんと何年も一緒に過ごしてきた」


「何年もというのは?」


 これは正造氏への質問。手持ち無沙汰にしていたので聞いてみた。


「神末くんや三木くんは、幼少期から由利亜と一緒に遊んでくれていたんだよ。パーティーの場などでね」


 ほー、なるほど。


 俺の母親も、なんぞどこかにお呼ばれしているが、連れて行かれたことはないのでどんな物なのか分からないが、子どもがいて楽しい場所ではないだろう。そこで遊んで仲良くなったという訳か。


「由利亜先輩としては、じゃあその二人とは仲良しって感じなんですかね?」


「へっ…いや、えっと、全然……」


「?」


 久しぶりに話したみたいにつっかえつっかえで出た台詞は、なんか周りの言ってることと食い違っていた。


「どゆこと?」


「神末さんも、三木さんも、確かに一緒に遊んでくれたことはあるけど、一回か二回くらいなの、たぶん」


 あの由利亜先輩がたぶんて、めっちゃ曖昧な記憶だ……。


 しかも幼少期の頃のだし。


 この年になっての再会で、よく親しい仲だったみたいに言えたなこいつ。


 視線を神末に戻すと「い、いや…!」と今度は三木が口を開いた。


「僕たち、は、確かに小さいときにあっただけ、だけど、凄く、ずっと好きで……だから」


 随分と熱く語る三木に、他の七人も拳を握り、自らの意思があることを訴えてくる。


「例えば、由利亜先輩がただの普通の、家に特徴のない一般的な女の子でも、あなた方はこの人を好きになりましたか?」


「…っ」


 そうだ、結局の所そういうことだ。


 だからこの際思いの丈はどうでも良いのだ。


 「本当に」愛しているのか。それが重要だ。


 ただまあ、これで候補は三人に絞れた。


 三木、神末、あと、名前知らない奴。


 この三人のうちの一人がキーだ。


 さて、じゃあどうやってその一人をあぶり出すかだが……。


「最後の質問。これに答えたら取りあえず各人の席に戻って貰って結構です」


「ほう、たった三つかい?」


「こんな無駄な事に時間を使ってる余裕無いので、巻きでやってるだけです」


 パンと肩をたたかれて、振り返ると三好さんが目をむいていた。


「ちょっと、たいちくん、それは流石に言い過ぎじゃ…!」


「言い過ぎ?」


 その声に促され、由利亜先輩を見ると、泣いていた。


「え……?」


 なんで?


 重ねて三好さんは言う。


「ユリア先輩の人生がかかってるんだよ!!」


「ん?」


 あ、ああ、なるほど。


 そうか、俺は重要なことを言葉にし忘れているのだ。


 自己完結していたからすっかり忘れていた。


「あえて言うまでもないと思ってて、すっかり忘れてました」


 椅子から立ち上がり、由利亜先輩にハンカチを差し出す。


「たい…くん……ひど…いぃ……」


 ぐしゃぐしゃの顔を俺に向け、ハンカチを受け取ろうとはしない。少し屈んで、泣きじゃくる可愛い人の頭を撫でると、頭をブンブン振られ手を解かれる。


 完全べそかきモード(今命名)


「……わたし…怖…て…きっと…て信じて……」


 んー、何言ってるか分からん。


 よしよしとあえてもう一度頭を撫でると、ほっぺを両方からむにゅっとつぶし、「面白い顔ですよ」と笑ってみせた。


「そんなに泣かないでください。俺も、あなたのお父さんも、もっとあなたに信頼されていると思っていたんですがね。でしょ、正造さん?」


 泣きじゃくる娘にかける言葉が見つからず、結局ワタワタしているだけだった正造氏に問いかけた。


 この茶番の仕込み人である人物に。


「……の…ノーコメント」


 白々しい。


「とにかく、ちょっと待っててください。そうだな、由利亜先輩は耳でもふさいでてください」


 その言葉を受け、耳をふさいだのは三好さんだった。自分のではなく由利亜先輩の耳を、だが。


「さて、最後の質問です。これに答えれば晴れてどなたかが、由利亜先輩の婚約者になれる。かもしれません」


 最後は結局、由利亜先輩次第だし。


「それでは。


 問い二『鷲崎雪江の現在を知っている』


 この質問にはどなたからでもかまいません。マルかバツかでお答えください」










 由利亜先輩が俺をここに連れてきたのには理由がある。


 俺にはその理由を推し量ることしか出来ないけれど、きっと、それこそがこのチキンレースを勝ちきる為の手札になる。


 では、その手札とは何か。


 第一に、ここの八人全員が由利亜先輩との結婚を望んでいると言うことは確かだろう。理由はいくつか考えられるが、そもそも可愛くておっぱいでかくて家事完璧、その上親は金持ちで、世界有数の企業に口利きも出来る。


 こんな女の子と結婚したくない男がいるのだとすれば、そいつは相当のプライドの持ち主か、きっと貧乳しか愛せない人物なのだろう。


 第二に、あれだけ由利亜先輩に会うことを拒んでいた正造氏がここにいると言うこと。


 二度尋ね、それでも会えなかったのに、なぜこの人はここにいるのか。


 それに、由利亜先輩がその正造氏に対してなんの抵抗もないところも違和感だ。


 そして、三つ目。


 全ての寺社の家系を調べた中に、鹿目などと言う家系は存在しなかったと言うこと。


 弓削さんに言って集めて貰った資料の中に、確かに同じ読みをする人物はいたが、字が違った。


 日本全国の寺社には、「鹿目」などという名前は存在しない。しかも、ピンポイントで。


 さて、これはどうしたものか……。




 

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