第3話 唐突に表れた少女には、思惑よりも心の傷。

 

 下校時刻が過ぎれば、当たり前に校舎から追い出される。


 え、俺どうすればいいの?と考える間もなく、見回りに来た先生から「早くでなさい」と催促され、先輩の鞄もついでにもって昇降口を出た。


 結局、部活初日の仕事はせずじまい。

 

 明日やればいいか、ていうかあの砂を先生はなんだと思ってるんだ?


 湧き出る謎の泉は量を増すばかり。かさが満タンを越えるころ、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「私の鞄をもって出るとはやるじゃないか、ナイス!」


 テンション高いなー、なるたけ顔を見ないように顔を向け、目線は明後日へ。


「シャワー浴びてたら、よっちゃんに見つかってさ~、よっちゃんだったから良かったけど、岩清水先生とかだったらやばかったな、びしょびしょで放り出される」


「経験談ですか」


「時間には厳しいんだよ」


「何やってんすか…」


 素直に呆れてしまうが、何となく口角は上がっている気がする。


「それにしても、私はもう太一君とすっかりなかよしになったきがするよ!」


「そうですか、俺はすっかりパシられるようになった気がします」


 先輩だもん。と否定しない先輩は、鞄を受けとると歩き出す。


 校門を出ると、坂道が続く住宅街。


 どうしてこんなところに学校があるのかは不明だが、多分土地が安かったのだろう。


 15分ほど歩けば駅にたどり着くが、俺は駅から更に少し歩いたところにアパートを借りてすんでいる。


「先輩は駅ですか?」


「字面だととてもバカっぽい質問の仕方だけど、口頭で歩きながらだとわかるって、日本語のすごさだよね~」


「聞き方が悪かったのは自覚してますよ…、それで、駅方面なんですか?」


「私は西百合ヶ丘に一人暮らしだよ」


 無駄に色気のある声で、「一人暮らし」の部分を強調するから生唾を飲んでしまう。


 良いように弄られている自覚はあるが、気恥ずかしいだけで嫌な気はしない。Mじゃない。


「せ、んぱいも、一人暮らしなんですね、俺もです」


「誘ってんの?」


 むせた。


「違いますよ! 会話の種でしょ!? ご両親は?とか他にあるでしょ!? 初対面の男子にそういうこと言わない方がいいですよ!?」


「私を女として見てはいるんだ?」


「他に何に見えるんですか、オカマなんですか? だったら先に言ってくださいよ、突っ込みかたとか考えるんで」


「おおんなで合ってます!」


「そうですか」


 よた話をしながら歩いていると、川沿いに出た。


 川幅の狭い、増水しても溢れることはなさそうな川。なにか魚がいるらしいが、よくは知らない。川には興味がない。釣りもしないし、川遊びなどもっとしない。


 会話の種がなく、二人で並んで歩くだけ。


 すれ違う学校帰りの生徒は、ちらと横目で俺たちを見る。


 運動部はどこも遅くまで残っているようで、少なくない人数が歩いているのがわかる。


 すれ違うなかに、同じクラスのなんとかさんやなんとか君もいるが、俺に気づいた様子はない。


 隣に美人がいるので、そっちに視線が行き俺には注目が一粒もないのだ。


 何となく、居心地よく感じる環境だった。


 しかし何となく、場違いな感覚もあった。




「それじゃあ太一君また明日! 部室に来るように! じゃあね~」


 笑顔で手をふり去る先輩に見とれながら、手をふり返し、見えなくなったところで我に返って手を下ろし、気恥ずかしさで下を向き、家に足を向けた。


 夕飯の材料を買い、二部屋とキッチンのある家に帰ってくると、敷きっぱなしの布団に寝転がってボーッとする。


 味わったことのない感覚に、思いがけずであってしまった。美しいものを見つけ、その人との共有を始めてしまった。


 きっと、負の前兆だ、今日だって考えてみれば驚かされて縛られていただけだった。あの部活が結局何をするさと頃なのかもわからずじまい。


 これからどうなるのやら…。


 ピンポーンとチャイムがなり、来訪者を知らせる。


 誰だろう、宅配便の予定はないし、来るものなどいないはずなのだが。


 思いつつも魚眼レンズを覗き込むと、知らない女の子がたっていた。


 だれだ、、、え、だ、だれ……?


 ほんとだれなんだ…?


 でも、まあ女の子なら害はない、俺が害を加えなければ警察も来ないだろうと思い、扉を開けた。


「はいはい、どちら様、む……?」


 俺の顎ほどまでしかなかった身長を、背伸びすることで伸ばし、目下見知らぬ少女に唇を奪われた俺は、パニック過ぎて抵抗できずそのまま玄関に押し倒された。


 器用にもキスして押し倒すまでの数秒に、少女は玄関の扉を閉め、鍵を閉めるという行為を終了させ、俺を襲う、もしくわ貶める準備は万端だ。


「ぷはぁ…どうでしたか……?」


「な、なに、が…?」


 正面から見た少女の顔は、今日見た美人とは対極の可愛い系、整った容姿に小さな肢体、見た目だけで判断すると俺より二、三は下、俺これ犯罪にならないよな?


「初めての…キス…」


「や、柔らかかった、です……じゃない!そうじゃなかった!」


 お前は誰だ!!!!


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