第16話 隠されたもの

エレクトラは思わず息を呑んだ。

扉の隙間から見えた光景はエレクトラにはにわかには信じられないものだったからだ。カーライルが囁いたドリーへの言葉は、鋭い剣となってエレクトラの胸を刺し貫いた。

どうしてこんなことになったのだろう。

エレクトラはただハイディーを探していただけなのに。



エレクトラは刺繍の会以降、誰にも悟られずにハイディーとの秘密の生活を共有していた。ハイディーは自由な猫で、部屋の掃除だとエイミが入ってくる時は窓から外に出してやるとしばらくは帰ってこない。だがそのままもの別れかというとそういうわけではなく、エレクトラが部屋にいる時にどこからともなく戻ってくるのだ。

おかげでエレクトラはハイディーと楽しい時間を過ごすことができた。少し心配していたが、ドリーにも気づかれることはなかった。夜は一緒のベッドで眠り、朝になれば外に出してやる。そんな日々が続いていたが、今夜は違った。

ふと目が覚めるとベッドにハイディーがいないことに気が付いた。

万一のことがあるので部屋の中を探したが、どこにもいないため、エレクトラは慌てて部屋の外に出た。カーライルの部屋に忍び込んでいたら大変なことになるからだ。だがカーライルの部屋の扉はきちんと閉められていて、猫1匹入り込めそうにない。最悪のシナリオは回避できたと安堵したところで、一階の明かりに気づいたのだった。

エレクトラが二階の手すりから下を見下ろすと、居間の扉から漏れる明かりを横切る影を見た。


 ハイディー!


心の中で叫ぶとエレクトラは音を立てないようにゆっくりと階段を降りて、ハイディーの姿を探した。だがそれはすぐに中断されてしまう。灯りが漏れる居間の奥から自分の名前が聞こえたからだ。

エレクトラは吸い込まれる様に扉の隙間から居間を覗くと、思わず目を見開いた。

なんとカーライルとドルイドが暖炉の前で親密な様子で話をしているではないか。

ハイディー探しどころでなくなったエレクトラは、2人の会話に聞き耳を立てた。確かにカーライルは自分の名前を口にしていた。

不思議なもので意識を集中させると、2人の声が鮮明に聞こえてくる。

エレクトラはカーライルの語る言葉に息を呑んだ。


ここを出た後の生活のこと。

エレクトラを妹のように思っていること。

そしてドルイドへの思い。


全てが衝撃的で、エレクトラを完膚無きまで打ちのめした。じくじくと刺さるような胸の痛みに耐えかね、ついに彼女は床にへたり込んだ。

しばらく呆然としていたが、指に慣れた感触が掠めたところで我に返った。見えないが感覚でわかった。ハイディーが戻って来たのだ。


「ハイディー…。」


エレクトラは膝に載って来た猫を抱き上げた。


「だめよ。隠れてなきゃ。

彼にばれたら大変なことになるわ。

わかるでしょう?」


エレクトラは涙をこらえながら、自分に言い聞かせるように囁いた。そうして胸に押し抱けば、を隠すことができるのではないかと思ったのだ。

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