第21話 ネックレス

ドルイドは驚愕の面持ちでカーライルに尋ねた。


「彼女はそういう家系なの?

トーレス一族なんて聞いたことないわ。」

「いいや、彼女だけがこんな状態だ。」


ドルイドは彼の返答に困惑する。


「どうして今まで気づかれなかったのかしら?」

「このネックレスが関係あるようだ。

これはとても古いもので君もわかっただろうが、このネックレスは魔力を抑える力があるんだよ。」

「失礼しますわ。」


ドルイドはエレクトラの許しも待たずに彼女に近づいていた。

だが安易に本体には触れず、エレクトラを怯えさせないようにさりげなく確認していく。

それは小ぶりだが質のいいガーネットに金縁がほどこされ、細かな意匠が見て取れる美しいネックレスだった。一目で制作者が肝入りで作ったことがわかる代物だ。


「これは誰から頂いたものかお尋ねしても?」

「亡くなった母からよ。」

「いつお亡くなりに…?」


ここでエレクトラの表情が曇ったが

しっかりと答えてくれた。


「私が幼い頃よ。これは形見として父から受け取ったの。それ以来ずっと身に着けてきたわ。」


ドルイドは彼女から離れたが、目はネックレスを凝視していた。


「大変古い魔力を感じます。

おそらくエレクトラ嬢のお母上の家系には

あなた様のような女性が何人か生まれていたのでしょう。

ですが全ての事情は母君の死とともに葬られたようですわ。」

「女性だけなの?」


エレクトラが驚きの声をあげる。


「これはあきらかに女性のために造られていますわ。

大事にして下さい。唯一無二の代物です。」

「ドリー、この件でいくつかあなたの見解を聴かせてもらいたい。

すでにウォード伯爵には君に相談する了解は得ている。」


段取りのいいことだと内心驚いたが、カーライルの真剣な表情に切迫した事情を感じる。だがここで話すのは妥当とは言えないだろう。


「構わないけれど後にして頂けるかしら。

私たちも仕事中なの。」


ドルイドはレイモンドにちらりと視線を向けたが、彼は無表情でダンスホールの方を見ている。


「ああ、ではまた自宅に報せをくれるかな。」

「ええ、約束するわ。」


その言葉に頷くとカーライルはエレクトラを促して2人は離れて行った。

それを視線で見送ると、横にいたレイモンドの肩の強張りが解けるのがわかった。


「あれはまずい。」


思わず本音が漏れでたようだった。レイモンドの言葉にドルイドはすかさず言葉を返した。


「彼女はだめよ。カーライルの客なんだから。」

「わかっている。だから耐えただろう。」


レイモンドはやれやれと首を振って、給仕係からワイングラスを受け取ると、それをあおってすぐにグラスを戻した。


「言っておくが今日の私は飢えていない。

それでもあれは強烈だった。鮮烈とも言うべきか。

あれだけの魔力が溢れた血を呑んだら酩酊めいてい状態に陥るだろう。」

「あなたはしばらく彼女の首筋しか見ていなかったわよ。」


ドルイドが呆れて言うと、レイモンドは眉間に皺を寄せて言い返した。


「君こそ、彼の話に親身になりすぎやしないかい。

自分で解決できないからと言って、君の優しさを利用して助けを乞うなんて商売上ルール違反だと思うんだが。」

「私たちの業界じゃよくあることよ。」


彼の言い返しは理解できなかったが、そう言ってこの話は打ち切った。

とにかくこのマクシムの問題が片付いても次の案件が待っているというわけだ。


「モレル氏が来る。」


レイモンドの言葉にはっとして顔を上げると、人の間を縫ってこちらに向かってくるモレル氏の姿があった。約束していた報告の時間だ。

ドルイドはレイモンドを伴って、彼の元へ歩いて行った。

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