第6話 メアリの進退(2019/12/29改稿)
モレル氏は話を終えるとすぐにロンドンに帰っていった。同行しなかったのはドルイドに時間が必要だったからだ。ロンドンに滞在する準備もあったが、何より今日は2月1日の木曜日で明日は金曜日だった。金曜日は例のごとく出かける用事があったので今日の出発を断ったのだ。
加えてここを発つ前に片付けなければならない問題があった。
メアリの件だ。予想していた通り自身もロンドンへ同行するという。もちろんそんなことをドルイドは認めつもりはなかった。
これまでの生活を取り戻すためには、彼女には出て行ってもらわなければならない。
「これ以上私の仕事に関わるなんて許さないわ。」
「だけどもうモレル氏には私も協力するって約束してしまったじゃないの!
それを
「そんなことどうとでも言えるわ。」
「それはどうだろうか。」
しばらく2人のやりとりを聞いていたレイモンドが口を開いた。
ドルイドはあなたは黙っていて、と目で訴えるように彼を睨んだが彼女の視線も無視して話し続ける。
「ドリー、君がもしモレル氏の要望を無視して彼女や私を追い返したとして、そうして2月7日までに解決できなかったら?
相手はアセンブリールームのオーナーだ。
多額の損害を君はどう保障する。」
「そうならないように契約書をつくっているわ。」
「そうだろうね。だが人の口に戸はたてられない。人脈の多い彼ならば、君の評判など
ドルイドは信じられない気持ちでレイモンドを見返した。
「あなたはメアリの味方なのね。」
「彼女は君に必要だと思っているだけだよ。」
冷静に言葉を返す彼にも苛立ちが募る。
メアリがここに来てからというもの、ドルイドの感情は揺さぶらてばかりだ。
ドルイドがメアリを振り返ると、彼女はびくりと肩を強張らせてこちらを見返してくる。その目には哀願の色が浮かんでいた。
確かにレイモンドの言うことにも一理ある。
モレル氏の依頼はドルイドが今まで扱ってきたどの事件とも違う。規模も大きくビジネスが絡んでいるのだ。もしドルイドが失敗した場合損害も計り知れない。ここで危険を冒すのは得策とは言えないだろう。
ドルイドが折れるしかなかった。
「いいわ…。姉さんをマクシムに連れていきましょう。ただし今回だけよ。この事件が終われば、姉さんには本家に戻ってもらうわ。」
メアリは何も答えず緊張した笑みを浮かべただけだった。
「そう言ってくれて私も嬉しいよ。
彼女はきっと君の役に立つだろう。
私も名乗りを上げた以上、君を全力でサポートしよう。
だがそう言った先から申し訳ないのだが、私もロンドンでの仕事をほったらかしにしすぎていたものだから、一足先にあちらに行ってできるだけ仕事を片付けてくるとするよ。
終わり次第君たちのもとに合流するとしよう。」
そう言ってレイモンドはドルイドにそばによって彼女の手を取った。
「君の身体はまだ万全ではないから無理をし過ぎないようにね。そしてあまり怒るものではないよ。体温が上がると血が香る。」
レイモンドはそう言って彼女の手首にキスをした。
ドルイドはさっと顔を赤らめ、急いで自分の手を引き抜く。
「それでは、また。」
彼はにやりと笑って部屋をあとにした。
すると入れ替わりのようにエイミが居間に入って来た。トレーにはサンドイッチとティーカップが2つ。ドルイドは朝食をとっていないことを思い出した。
「ありがとう、エイミ。」
彼とのやりとりが無かったように振舞うことにして、なんとか口角を上げてエイミにお礼を言う。彼女はにこやかに答えた。
「ハットフォード様からドルイド様が朝食がまだだとお聞きしたので。」
ドルイドは笑みを消した。全ては彼の思い通りということに腹が立った。
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