第18話 手紙
ついて来たメアリには今度こそ馬車に留まるように告げた。
この前みたいに抱えて帰るのは真っ平だし、これ以上モーリス夫妻に失態は見せるわけにはいかなかった。
ドルイドは馬車の中で手紙の封を開けると、中から出て来た分厚い紙の束を熱心に読んだ。メアリはそれがとても気になって何度も覗こうとしたが、ドルイドがそれを許さなかった。
メアリが唯一知り得た情報は、手紙の封に
メアリはにやりと笑って勝ち誇ったように言った。
「あなたの素敵な隣人からね。
その頭文字でピンと来たわ。
ね、そうでしょ?
あなたが隠す理由なんてそれしかないもの。」
ドルイドは聞き流していたが、誰のことを言っているのか気が付くと眉間に皺を寄せて言葉を返した。
「それってもしかしてレイモンドのことを言っているの?
あなたが知っている私の隣人なんてあの人しかいないものね。
だけど残念ね。
彼の綴りはRで始まるのよ。」
ドルイドはそれだけ言って、また手紙を読み始めた。
メアリは当然の指摘を受けて真っ赤になりながら、絶対に手紙の中身をつきとめてやるわ!と心の中で誓った。
馬車が止まると再度メアリに忠告してから降りた。
霊園に入ると、前にも増して霊がざわついている。
イギリスの特に南部はハロウィンの風習はほとんどないが、間違いなくその日は
こちらとあちらの世界の境界線があいまいになる。
霊だけでなく、我々が歓迎しない者たちもこちらにやってくるのだ。
ドルイドはフィリップ・グリントが言った1週間の意味を理解していた。
あの時、彼が告げたタイムリミットはハロウィンのことを言っていたのだ。
ハロウィンが来れば、魂の恋人たちはたちまち邪悪な者たちに飲み込まれてしまうだろう。
確かにハロウィンが近づくにつれ、彼らの動きが活発になっているのを感じる。
そして今日は金曜日だった。それは1週間の中で最も邪悪な力が強まる曜日でもある。
それはマイラ嬢の魂にとって喜ばしい状況ではないはずだ。
ドルイドは敏感になっている霊たちを刺激しないように、真っすぐフィリップの墓へと向かった。
ドルイドが馬車を降りて1時間が経とうとしていた。
メアリはついに心配になって馬車を降りる決意をしたが、扉をあけたところで
ドルイドが帰って来た。
「ドリー!心配したのよ!
何か問題があって?」
ドルイドは青ざめた顔でトニーの助けを得て馬車に乗る。
「いいえ。むしろ何もなかったわ。
彼が一切出てこないの。
様々な方法で呼び出したけど、一向に応じる気配がないのよ。」
メアリもその言葉に表情を曇らせる。
「これからどうするの?」
「マイラ嬢の身体を使うしかないわね。
彼女の身体をパイプにフィリップに声をかけるしかないわ。」
そう言ってトニーに出発するように声をかけた。
ドルイドはすぐに仕事に取り掛かった。
部屋にはマイラ嬢の他にドルイドとメアリだけにして場を整える。
ドルイドは最初にこの部屋に来た時と同じように、マイラの胸に手をあてて
声をかけ続けた。
だがその努力も虚しく彼からの反応は一切返ってこなかった。
ウィリアム卿のことも、手紙のことも、彼に伝え続けたが全てが一方通行のように思われた。
ドルイドはここに来て初めて焦りを感じた。
もしかすればマイラ嬢を救えないかもしれない。
そんな不安が胸の奥に染みのように広がり始めていた。
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