第17話 再び彼の元へ

 モーリス邸に到着すると、ドルイドは栗毛の馬の傍に寄った。


「問題なく走っていたので大丈夫だと思います。」


後ろからトニーが声をかける。

ドルイドは振り返り、静かに頷いた。

調子が悪くなったのを装うために、馬に薬草を焚いて嗅がしたのだ。

動きが鈍くなる麻酔のようなもので、その効果も一時的なものだからあまり心配はしていなかったが、この栗毛の馬はモーリス氏のものなので念のため確認をしておく。

メアリの馬は疲れ切っていたので、モーリス氏に馬を借りるしかなかったのだ。

ドルイドは馬に寄り添い、お詫びをした。





屋敷に入ると、待ち構えていたように夫妻が2人を出迎える。


「何かわかって?」


夫人の目には期待が滲んでいた。


「いえ、大きな成果はありませんでしたわ。

どうやらウィリアム卿は今回の件に関係はないようです。」


メアリが口を開く前にドルイドが報告する。


「失礼はなかったろうね。」


モーリス氏は憤然と尋ねた。

2人がハートフォードのウィリアム卿の屋敷を訪ねることをあまり快く思っていなかったのだ。

この結婚は何としてでも成立させたいと思っているモーリス氏としては、胡散臭い魔女2人が娘の婚約者に会うなど許したくはなかっただろう。


「ええ、こちらが誰かは悟られませんでしたわ。」

「だがはるばる遠くまで行って成果は無かったというのだね。」

「今のところはそう言わざるおえません。」


ドルイドは気にする風でもなく淡々と告げる。


「ですが無駄ではありませんでしたわ。これから再びグリント氏のお墓を訪ねます。彼に聞きたいことがいくつかありますから。」


夫人からドルイドたちがフィリップに会ったことを聞いていたので、その言葉にモーリス氏もさほど驚きは見せなかったが、それでも眉間に皺をよせ難しい顔をする。


「フィリップは私たちのことを何か言っていたかね。」

「いいえ、そんな時間はありませんでしたから。

あちらの者と話をするのは、これでも骨を折るんです。

必要なことしか聞けませんわ。」


アリスがお茶を持って応接間に入って来た。


「アリス、ちょうどいいところに来てくれたわ。

マイラ嬢の様子を見たいの。

あなたとこずれって知っているかしら?

身体を動かしてあげないと背中が擦り剝けたようになってしまうの。

人手がいるから2階へ一緒にあがりましょう。」


ドルイドはアリスとともに2階へ上がった。

もちろんその後にメアリもついてくる。





マイラの寝室に入るとメアリが口を開いた。


「どうしてウィリアム卿のことを言わないのよ。

あれでは私たちが無能みたいだわ。」

「今のところは無能よ。

さぁ姉さんも手伝ってちょうだい。

こんな体じゃ彼女の魂が戻ってもしばらく動けなくなるわ。

アリスはそちらを持って、そうよ。

姉さんはこっち。」


そうしてマイラの体位を変えて衣服の皺を整え終えると、ドルイドはおもむろに

アリスに尋ねた。


「あの手紙は届いているかしら。」


アリスは尚もマイラの衣服を整えていたが、ドルイドの言葉にはっとして慌ててポケットから分厚い手紙を取り出した。


「言われた通り奥様たちには気づかれないように預かりましたわ。」

「ありがとう。」


そう言ってドルイドはポケットに手紙をしまうと、1階へ降りた。


「マイラ嬢の様子が見れたので、グリント氏のもとへ行きますわ。」


夫妻はもう何も言わなかった。

だがドルイドは気になっていたことがあったのでモーリス氏に1つだけ質問をした。


「あの立派なお墓を建てられたのはあなたですか?」


突然の質問に少し驚いたようだが、すぐに表情は苦いものに変わる。


「そうだ。彼にはとても世話になったからね。

本当なら生きている間に金をかけてやりたかった。

娘の夫となった彼にね。」


そう告げる彼の顔には、悲しみと苦痛が浮かんでいた。

ドルイドはそれだけ聞くとモーリス邸を後にした。

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