第15話 サウスウェル子爵

 「本当にろくでもない男だったわ。

始終、私に言い寄っていたのよ。

弟があれだけろくでもないんだもの。

兄のウィリアム卿もたいした方じゃないわ。

ああ、マイラ嬢の将来が不安だわ。

フィリップが不安なのも理解できるわ。」


メアリはロンドンへ向かう馬車の中で、並木道の散歩での出来事をまくしたてた。

メアリがエヴァル家についてヘンリーから聞き出したのは、こういうことだ。

ヘンリーの父、モーティー・エヴァル氏は大変厳格な男で、2人の息子をとても愛してはいたが、無口な性格が祟りウィリアムや自分とも良好な関係を築けなかった。そのため母親シエナが家族の心の支えとしてなっていたが、その母親も病で5年前に亡くなり、そして父も2年前に他界したとのことであった。

父が他界したことでサウスウェル子爵の爵位とこのビルヒル屋敷は兄が引き継いだ。

父の厳しい方針を改め、今は領地の運営について新たな取り組みを行っているとのことだが、それが成功しているのかも怪しいとメアリは踏んでいた。


「なんとか執事はいたけれど、きっとこき使われているに違いないわ。

それに使用人たちも元気がなかったし、主人が好かれていない屋敷の典型ね。

薪もきっとケチっているのよ。

だからあんなに屋敷が寒々しいんだわ。」


実際は少なくとも2人がいるところは温かく保たれていたように思う。

メアリの言いようはあんまりな気もしたが、口は出さないことにした。


「また是非お立ち寄り願いたいと、強く言われたわ。

もうすぐ社交シーズンですし、ロンドンでもお会いすることもあるでしょう、

とお伝えしておいたわ。

でもそれは不可能ね。だって謎の伯爵令嬢は謎のままなんですもの。」


メアリは楽し気に微笑んだ。


「それにしてもウィリアム卿にお会いできなかったのは残念だわ。

それが目的で来たんですもの。

フィリップが言う真実に近づけたかもしれないのに。」

「会ったわよ。」


窓を見ていたメアリは急に振り返った。

目を丸くしてドルイドを見る。


「まぁ、ドリー。

今なんて言ったの?

私、聞き違いをしたのかしら。

あなたはウィリアム卿に会ったの?」


ドルイドはちらりとメアリに視線を送る。


「ええ、そうね。

でもあなたも会ったのよ。

並木道であなたが腕をくんで歩いたのは弟のヘンリーではないわ。

彼がウィリアム・エヴァル、サウスウェル子爵よ。」

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