第14話 ウィリアム・エヴァル

 何か考えがあってメアリはヘンリーを連れ出したのだろうが庭の美しさは認めざる負えなかった。

10月の下旬にもなると花々は紅葉する木々に主役を譲り、青い空に映えて寂しいと思われていたビルヒル屋敷に色を添えていた。

メアリは始終感動しっぱなしで、ヘンリーの自尊心を満たしている。

木々の紅葉も美しいが屋敷のそばの花壇に植えてある小さな花々が可憐に咲いているのもドルイドはきれいだと思えた。

庭師がいるようには見えないが使用人の誰かが世話をしているのだろう。

メアリが最も褒めたたえたのは立派なオークの並木道だった。

その昔、この屋敷を所有していた上流貴族の庭園改革で植えられたものらしい。

距離にしてはあまり長くはなかったがそれくらいが丁度良いと思えた。

ヘンリーの腕を借りてドルイドとメアリは並木道を歩いて行く。

そこでメアリが声をあげた。


「叔母様、お体は大丈夫かしら?

あそこにベンチがあるわ。

少し休んではいかがかしら。」


メアリはヘンリーと2人きりで話をするつもりらしい。

ドルイドはメアリの言葉に素直に従った。


「あら本当ね。

少し休みたいわ。

悪いけれど、エヴァルさん。姪はこの並木道を大変気に入っているようだから

最後まで案内して下さるかしら。

私はここで待っているわ。

戻ってきたら、またここでご一緒してお屋敷に戻りますわ。

でも早く戻って来て頂戴ね。

座っていると体が冷えてしまうもの。」


ヘンリーは丁寧にお辞儀をして2人で去って行った。

メアリはヘンリーの肩越しに得意げに目くばせする。

あとは任せて、という意味なのだろう。

ドルイドは溜息を突いて2人を見送ったが、実は2人から解放されたことを喜んでもいた。

やっと今後のことについて考えることができるのだ。

だがそれもすぐに中断することになる。

人の気配を察知したからだ。

ドルイドは2人が去った方とは逆の方向に目をやる。

すると驚いたことに並木の間に1人の紳士が立っていた。

ドルイドは熱心にその男を見つめ、引き寄せた。

魔法を使ったわけではない。

女が男を追いかけて声をかけるわけにはいかないので、向こうからそうするように仕向けただけだ。

男は杖をついていて、左足を痛めているらしかった。

男はゆっくりと遠慮がちにこちらに近づき、ドルイドの前で立ち止まる。

ドルイドもベンチから腰を上げた。

男は帽子を脱いで礼を取った。ドルイドが思っていたよりも大分若いようだ。


「こんにちは。私はこの屋敷に滞在している者です。

あなたの大切なお時間を頂戴してもよろしいでしょうか、レディー。」

ドルイドも軽く膝を折って礼を取った。

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