第9話 真実を求めて
メアリはしばらくすると目を覚ましたが、それでも意識は虚ろなようで歩くのもおぼつかない様子であった。
ドルイドは彼女を支え、馬車の待つストリートまでなんとか歩いた。
姉を1人置いてトニーを呼ぶと彼女の体がどうなるかわからない。
そう考えるとドルイドが1人で彼女を支えて歩くしかなかった。
霊園から2人が出てくるとトニーは慌てて駆け寄って来た。
「お嬢様!」
「とにかく馬車に。
ここは目立つわ。」
トニーはメアリを支えて馬車の中に運んだ。
ドルイドも馬車の中に入って座ると、どっと疲れが押し寄せて来る。
アリスがいないのはありがたい。トニーが送ってくれたのだ。
しかし一息ついたのも束の間で、彼の次の質問にドルイドは苦しめられた。
「どちらに向かわれますか。」
トニーが真剣な眼差しで尋ねるのでドルイドはその質問の意味を考えざるを得なかった。つまり彼は問うているのだ。このままモーリス邸に戻るか、それともロンドンにあるドルイドたちの一族の屋敷に向かうかを。
「モーリス邸にお願いするわ。」
メアリの言葉だった。ドルイドがメアリの方を振り向くと彼女は力なく笑った。
「私は大丈夫よ。
いつものことだもの。少し楽にしていればすぐ良くなるわ。」
ドルイドは何も言えずただメアリを見つめる。
メアリはドルイドの視線に答えた。
「ドリーは悪くないのよ。
私が無理について行ったのだもの。
あなたにこれ以上迷惑はかけないわ。」
トニーはまだ迷いを見せていたが「モーリス邸に。」とメアリが言い切ると彼は即座に扉を閉めて御者台に乗った。
馬車がゆっくりと走り出すとメアリはゆっくりと息を吐いて壁にもたれかかり、目を閉じた。
ドルイドは沈黙を貫いた。
彼女はそうするしかなかったのだ。
真っ青なメアリを見てモーリス夫人は慌ててアリスたちを呼んで、休むための部屋を用意してくれた。
夫人はメアリに優しい言葉をかけ続けていたが、今や彼女までが真っ青になり震えていた。
おそらく夫人はメアリがグリント氏に襲われたと思っているのだろう。
ゴシック小説の読みすぎだと言いたいところだがあながち外れていないのが笑えない。
メアリを用意してもらった部屋に寝かしつけると夫人とドルイドは再びマイラの部屋に入った。
「夫は用事で出ています。
これ以上、仕事を休むわけにはいかないので。」
「グリント氏に会いました。」
ドルイドはすぐに話題に入った。
夫人ははっと振り返り、青い顔は血の気が引いて白いくらいに見えた。
「彼は何かおっしゃって?」
「1週間以内に彼女の魂を取り戻せないと彼女は死ぬと言っていました。」
「そんな…!」
夫人はまたもや倒れそうになったが壁に寄りかかり何とか耐えた。
そしてしばらく呼吸を整えていたが、今度は何かに気づいたようにドルイドを見た。
「彼が娘の魂を持っているのではないの?」
「おそらく。しかし手放せない何か理由があるようでした。」
夫人は怪訝な顔をする。
「その理由はおわかりに?」
「いいえ、ただ真実が重要だと。」
夫人は驚きに目を見張る。
「何かご存じなのですか?」
この質問に夫人は慌てて目を反らした。
「私は何も知らないわ。
真実…とは、なんてあいまいな言葉なのかしら。」
「彼はこれ以上何も言えないと言っていました。
後は私たちだけでどうにかするしかありません。」
夫人は再びドルイドの目を捉える。
「何か考えがあって…?ドリーさん。」
ドルイドはすぐには答えなかった。
「…少し考えさせて下さい。
今夜は申し訳ありませんが泊めて頂きます。
姉の傍にいたいのであの部屋を一晩お借りしてもよろしいでしょうか。」
「それはもちろんよ。
メアリさんが回復するまでどうぞいらして。
私にできることがあれば何でもしますわ。
お腹はすいていないかしら?
私も夕食がまだなの。
よろしければご一緒にいかがかしら。」
ドルイドが丁重にお断りすると夫人も少しほっとしたような表情を浮かべる。
だけどそれは馬車の時とは違う理由からだった。
夫人も今は何も口にする気が起こらないのだという。
「何か軽いものを運ばせるわね。お夜食に頂いて。」
ドルイドはお礼を言って姉のいる部屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます