ここは公開執行所
見世物というものは、見る者の心を豊かにする。剣闘士、格闘技、動物園などなど……程度の差はあるが。
ここは公開執行所。司会の男の声が、マイクを通してホールに届く。
「この男、ある幸せな家族の住む家に忍び込み、夫婦二人と子供三人を惨殺した殺人犯!さらには助けを乞うばかりで、反省の色もありません!」
透明な、ガラスのような檻に、男が閉じ込められている。ドンドンと檻を叩き、悲痛な表情で何か口を動かしているが、その声が外に届く事は無い。
「では皆様!この男に相応しい刑はー!?」
「死刑!死刑!死刑!」
檻を取り囲んでいる大勢の男が、声を合わせて叫ぶ。ここまでは、お約束のようなものだった。公開執行所には、死刑が相応しいような罪状を持つ囚人しか居ない。
「さあ皆様!どのような刑をお望みですか!?」
「焼殺しろそんな奴!」
「馬鹿、それは昨日やっただろ!絞殺だ絞殺!」
「絞殺なんて何度見たと思ってる!斬殺にしろ!」
このように、この公開執行所で焦点が当たるのは、いかに死刑を執り行うか。それが惨たらしければ惨たらしいほどに、見物人達の心を踊らせる。
見物人からせしめた金を使い、その者の罪が償われるとか、犠牲となった人々の傷ついた心が癒えるだとかは、あくまで表面上の大義である。この遊戯に比べれば、そんな正義だか正当性だかの、いかにちっぽけな事か。
今日もこの執行所に、血が流れる。泥ついた世や心を洗い流す、世界にとって必要な血だ。見物人達は狂喜し、金を放り投げる。
『助けてくれ!俺は罪なんて犯してない!目が覚めたらここにいたんだ!』
これから死を迎える男の声が、虚しく檻の中だけに反響した。
ここは公開執行所。咎人を戒める、見世物小屋。それが真に罪人であるかなど、気にする者は誰もいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます