もののふSNS
さてある国で戦働きをしている吉良和泉という者、幸いにも一日で終わった戦場にて、太刀を見つける。その太刀の持ち主、木村一重は知人であったが、探せど探せど見つからぬ。とうとう諦め疲れ果て、愚痴っぽく『一重は太刀すら放り出して戦場から逃げた臆病者』とSNS―国中に信念と共に己が言の葉等を放つ場である―にて申した。
それを黙っていられなかったのは、一重の倅、重直であった。『父を愚弄するか』と怒り心頭、『太刀など拾っていないだろう』とも述べ、挙句和泉の人格を否定するような内容までSNSで申し始めた。
これには和泉も我慢出来ず、この太刀が本物である事を強く主張。重直も又後には引けぬと、虚偽に満ちた偽語りだと強弁。
かくして二人は河原にて、それぞれの意地と共に、どちらが正しいか決める事になった。暫く睨み合う両者であったが、和泉はすらりと長い太刀を掲げ、重直に渡した。
「ぬうっ!此は確かに父の愛刀、虚断!」
虚断は小太刀と同じ音、やや間の抜けた名前だと言われていたが、一重、その名を大層気に入り、重直に己が武勇伝と共に、楽しげに披露していた。父との思い出の刀、間違えるはずも無し。
「いかにも此れは一重の刀!某は戦場にて拾ったが、お主の父はどこにも居らなんだぞ!愛刀すら放り出して逃げた以外に何がある!」
それを聞き重直、どかんと両膝地面に付け、腰から短刀を取り出し、着物を脱いだ。
「ご無礼お許しくだされ。父が逃げ出したのは虚か実か、しかし確かに吉良殿は見事約定果たされた。責務果たさずば武士にあらず!吉良殿、介錯お頼み申す!」
「見事也重直!お主の魂、後世まで伝えようぞ!」
重直が腹部に短刀を突き刺すと、和泉、えいやと素早く刃を首に放つ。刃こぼれさせず、見事に一刀両断。重直の首がごろんと転がった。
すると和泉、辺りの血を拭き、重直の死体を整えて、側に虚断を置き、スマホを構えてぱしゃり。『天晴、重直』と文字を添え、SNSにて表明した。武士達もそれを見ると、天晴、見事の万歳三唱、重直の名と和泉の名は、瞬く間に世に広まった。
さて後に重直の父一重、懸命に戦ったが及ばず、敵に捕らえられ殺された事が分かった。愛刀虚断も敵に奪われたが、お供の者が血みどろになりながら、何とかそれだけは取り返した後、五里ほど歩いて力尽きたという。
すると和泉、たちまち虚偽を申したと糾弾される。初めのうち、あの手この手で弁を重ねていたが、遂には屋敷を突き止められて暴徒に襲われ、絶命した。和泉の首、暫く路に晒されたという。
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