正しい人間

あるところに、それはそれは素晴らしい国がありました。技術の発展たくましく、その国のロボットは、まさに天下一品と評判でした。


機械というのは、予想外の出来事に弱い物、という印象を、その国は見事に壊しました。まさに常軌を逸した人工知能を搭載したそのロボットは、どんな状況においても、瞬時に的確な判断を下せました。金具が剥き出しのみすぼらしい姿でしたが、それはまさに人間を越えた、と一部で囁かれていました。それほど素晴らしいロボットなのです。合にして一、一にして合。コミュニケーションの行き違いなどまるで無い、無欠の機械達が、人間の働く場を瞬く間に侵食していき、もはや人間という存在は、かの国を動かすために不可欠では無くなりました。そのロボットは、物を造り、そして扱う事も出来ました。端的に申しますと、ロボットがロボットを作る光景が、そこでは日常の風景だったのです。科学者だって、ロボットに取って代わられていました。


人の頭脳には、無限の可能性があるのかもしれません。しかしそれは、一歩一歩、足場を固めながら進む、長い旅路です。ゆっくりと、しかし確実に、人類は進歩してきました。ロボットは、そんな人類の長い歴史を、恐ろしい速度で追いつき、追い越していきました。クリエイティブ、創造性、などという言葉は、もはや人類だけに向けられる物ではありません。今やロボットだって、それが出来るのです。


一方、その国の人間はというと、非常に幸福な生活を送っていました。定められたルールの中に従う事で、美しく秩序だった毎日を送っていました。一度それに違反する者を、まるで不良品のように弾き、善き秩序を維持していました。毎日毎日、同じような生活を送っていましたが、機械から届けられる、楽しい玩具のおかげで、ちっとも辛くありませんでした。決められた秩序の元、皆が一様に、一体となって行動するのです。人々はそれに誇りを持っていました。その人間の姿は、まるでかつての機械のよう。既定のシステムに、従う他無いのですが、それは逆に、人の苦悩や後悔等の様々な不幸を、淡雪のように優しく、緩やかに消してくれて、人々を幸福に導くのです。


ああ、なんて素晴らしい国!人々は幸福であり、機械の進歩は目覚ましい。科学の発展、世界の発展。まるで理想像のようではありませんか。かの国の、その善き結果をご覧なさい。まさに、善き国。他の国々は、嫉妬し、批判するしかありません。人が機械の奴隷になっている?その妄言は、一体如何なる意味を持っているのですか?そのような、いかにも正しい振りをした空言など耳に入れずに、どんな国より平和であって、治安が良くて、発展したこの国をご覧なさい。その住人にならずして、一体どうして人と言えるのでしょうか?

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