第2話
イヴの困惑した姿を見ると男は口角を僅かに上げた。そして、男はイヴの瞳をじっと見た。イヴも男の左右異なる瞳を見た。初めは目を逸らすように。次は挑発するかのように。
イヴは凄惨な事件現場に視線を戻した。
「あのミノタウロスは何故このようなことをしたのでしょうか」
「何かに絶望したのか、それとも何かを憎んでいたのか、それとも殺しが好きだったのか。それとも、そもそも理由なんて無いのかもしれない」男は血溜りを見ていた。
「理由がない?」イヴは男に振り向きすぐさま返した。
「理由が必要でしょうか。全ての事象に理由は必要でしょうか」
「人が何人も殺されて、理由がないなんて誰も納得できないわ」イヴは反論するように言った。すると男は微笑んだ。
「今は理由がなくとも、人々が求める理由がじきに理由となるでしょう」
イヴは黙り込んだ。そして考えていた。イヴが求める理由を。
「この港町に人を切り裂き快楽を得る殺人鬼がいると聞きました。その者に会うため私はこの町に来ました」
「あのミノタウロスがその者なのですか?」
「違います」男はすぐに否定した。
イヴは今までその殺人鬼の噂を聞いたことがなかった。
「再びこの町で犠牲者が出るという事ですか?それは絶対に避けなければならないことです」イヴは不安げに言った。すると、男は皮肉混じりに笑った。イヴは腹を立て、不機嫌そうに男を見た。
「分からないですか?その者は貴方の事ですよ。貴方の未来です」男は言った。
イヴはその場で固まった。そして、空を見上げた。雲ひとつ無い青空だった。
「私はナクロと申します。貴方は?」
「……イヴ」
「では、また会いましょう」男は軽く会釈し人混みに消えていった。
継目 新開ゆうき @yukishinkai0621
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