第1話 入学式の日

「春の暖かな風を感じ。」



講堂にある、ステージの上で俺━━大岩海斗は新入生代表として挨拶をしていた。


俺の目下には俺と一緒に入学した新入生と先輩方が座っている。そして、この中の何処かに王がいる。



「これで、私の挨拶とさせていただきます。」




パチパチと拍手の音が聞こえる。その拍手は、俺の挨拶に対して称賛しているように聞こえるが、それは違う。もちろん、100%違うとは言えないが、殆どは俺に対する敵意だろう。俺は1年首席。同学年なら超えるべき敵。先輩なら自らを脅かすかもしれない敵。

それが全て俺に向けられている。並大抵の神経では耐えることはできないだろう。



そのまま歩いて前から3列目にある席に座る。(入学式なので席は特に決まっていない)



「良い挨拶だったよ。」



席に座ると同時に、隣から話しかけられた。隣を見ると、そこにいるのは眼鏡をかけた、運動が出来なさそうな男がいた。一瞬警戒するが、敵意は無さそうなので少し安心し、返事を返す。



「ありがとう。君は?」



「あぁ。ごめん。先に名乗るべきだったよ。山田進次。よろしく。」



「俺は大岩海斗。って、もう知ってるか。」



当然とばかりに進次は頷き、続ける。



「首席だからね。僕の事は進次ってよんでよ。」



別の奴なら馴れ馴れしいと思っていた所だろうが。進次の場合、何故かその気持ちが起こらない。話したくなる。そんな魅力が進次にはありそうだ。



「俺も、海斗で良いよ。よろしく。」



「よろしくね。」



高校で初めての友人ができた。これは大変喜ばしいことだ。



彼と話している間にもプログラムは進んでいった。



『王様からの挨拶』



このプログラムを俺は待っている。入学式のプログラムを知った今日の朝。その時からずっと待っていた。今の王はどんな人なのか。それがとても知りたかった。



「進次、王って誰か知ってるか?」



「いや。知らないよ。」



そして、少し微笑んだ。



「やっぱり君も知りたいんだね。」



「君もって事は、お前も?」



「もちろん。」



やはり。この学園に来て、王が気にならないものは殆どいないだろう。それだけの魅力がある。



その時、遂にプログラムが進み、あのプログラムが呼ばれる。講堂にあるドアが開け放たれた。



そこにいる複数人の男。そして真ん中にいる青年こそ、王であろう。周囲にいる男は護衛。



厳重に守られている王からはとてつもないオーラが感じられた。



「…っ!」



俺は驚いた。王を見たときから口を開く事が出来ない。



俺は圧倒されていた。



初めてだった。俺は負けたことがなかった。誰にも圧倒されたことはなかった。



屈辱だ。



「初めまして。僕が今の王。名前は神宮寺聖二。よろしく。」



ステージの上で王━━神宮寺聖二が自己紹介をする。



神宮寺…聖二



その5文字が俺の頭の中をグルグルと回る。



王が帰り、式が終わった後もしばらくは初めて味わった屈辱で立ち上がる事が出来なかった。





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この学園で王になる ラーメンラーメン @esakana3515

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