みっつめ



それは、存在する意味をなくしたが

私から離れていくことはなかった。

それはむしろ、残酷なほど私に付きまとい

何かあるたび輝きを増し、

何もなくても煌き続けた。


何でもなかったものに 骨格ができ、

肉がつき、色が塗られていった。

空気のように、

そこにただあるだけだった色は

「色」として認識され、

目に鮮やかに 心に響くものになった。


そう長く続かなかった美しい日々の

彼の声や表情や、しぐさひとつひとつに

私が心を動かされるのも、

裏を返せば彼もまた、彼の想い人に

心を動かされているということだった。


ふと、気がついた。

それは、持っているだけだと

不幸だということに。

届ける相手なしには、存在するだけで

私を蝕んでいくものだった。


ふと、気がついた。

私が、彼の声をきいて穏やかになるのも

姿を見て、心臓が踊り苦しくなるのも

しぐさひとつにときめくのも

全部、意味をなさないものだということに。



でも、願わくばが止まらない。

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