(できれば)仲直り
莉奈とともに先生たちから事情聴取とたっぷりの説教をくらったおれが帰宅したのは六時過ぎだった。
意外なことに、家の玄関で出迎えてくれた親からの説教は驚くほど軽かった。
幼なじみでもある莉奈の親は当然おれの親とも顔なじみで、ある程度の事情を耳にしていたらしい。おれを女生徒同士の喧嘩に巻き込まれた被害者とでも思ったのだろう、その場にいながらなぜ止めなかったのかと軽く叱責されただけだった。
莉奈は厳格な父親にたっぷり叱られているという。これまでの悪行を思えば当然かもしれないが、幼なじみとしては気の毒にも思う。
碧さんはどうしただろう。
保健室に向かったあとは知らない。傷の程度によっては近隣の病院に向かったかもしれない。
いま考えても寒気がしてくる。目にハサミなんて……考えただけでも怖い。
碧さん、無事でいてくれ。
そのとき、ピロリンとスマホが鳴った。この音は。
「メール、碧さんからの……ってうわっ」
慌てすぎてベッドから転がり落ちてしまう。なんて間抜けなんだおれ。天井灯を見上げながら目の前にスマホをかざした。
『こんばんは。今日は迷惑をかけてごめんなさい。わたしは大丈夫』
いつもと変わらない明るい調子だ。心底ほっとする。
『保健室で診てもらったあと病院に行ったんだけど、右の目蓋を少しかすっただけでした。視力も問題ないよ。医療用の絆創膏を貼ってもらったんだけど恥ずかしいから眼帯をつけてもらいました』
目蓋をかすっただけ。なんだ、良かった。
『大事をとって明日は一日休むけど、明後日からはいつも通りに出席します』
待ってるよ、と返信する。
『いろいろ話したいこともあるけど、今日のガチャは回しちゃったからね』
相変わらず律儀だな。こんなときくらいいいのに。
『今日のアクションね、いつか鴇田くんに見せつけてウソ告を糾弾しようと思っていたんだ。こんなに仲良くなれるとは思わなくて』
『おれもそうだよ。ウソ告のこと、ごめん』
『いいの、わたしもわかっていたし。だから今日のアクションを修正したの。このメールが終わったら回してみて。それがでるようにしておくから。おやすみなさい』
もっとたくさんメールしたかったけど「おやすみなさい」は終わりの合図だ。
これで碧さんが出現するアクションをある程度操作していたことが明白になったわけだけど、不思議と怒りは湧いてこなかった。
それよりも言われたとおりガチャを回してみた。
『小山莉奈さんと(できれば)仲直りする』
と出てくる。
今日取っ組み合いの喧嘩をした相手と仲直りなんて、すごい神経だよな。
なるほど、だからいま回せって言ったのか。一日一回のガチャでこれが出てしまったら三日以内にクリアしなくちゃいけないから。
『できれば』ってつけているあたり、消極的で可愛らしいけど。
「仲直り、か」
おれはベッドによじのぼって目を閉じた。
明日は休み。教室に碧さんがいないのか。
だったら夢に碧さんが出てくればいいのに。
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