最初のガチャ結果はなんと…!
「昨日はありがとう。じゃあ、鴇田くん回してみて」
翌日の放課後。公園で落ち合った碧さんは早速自身のスマホを取りしておれに差し出してきた。
「え? 自分のスマホで回すんじゃなくて?」
「お互いのスマホをアプリでリンクしてあるからどっちでも結果は見られるけど、一緒に見たほうが楽しいでしょう?」
にこにこ顔でおれの手の中にスマホをすべり込ませてくる。
「わかった。回すよ」
おれは起爆スイッチでも押すような心境で指を伸ばした。ハート形に『さぁ、
碧さんもおれの指先を真剣に見つめている。
排出率から言えば『電話』や『メール』がかなりの高確率で出現するはずだけど、時々とんでもないレアが飛び出すのがガチャだ。それに碧さんがなにをどんな排出率に設定しているのかわからない以上、確率なんて考えても無意味だ。
ぽち。
指紋を押しつけるようにぐい、とボタンを押した。ボタンが軽く凹んだあとキラキラと点滅する。
――さぁ、来い。
ピロリーン。と盛大な効果音とともに現れたのは。
『手をつなぐ』
ウソだろぉおおおお。
だって排出率すごく低いのに。なんでお試し期間の一日目にしてこれが当たるんだよ。
スマホを放り出したい衝動に駆られたが碧さんのものなのでそれはできない。食い入るように画面を覗きこんでいた碧さんは何度か瞬きして状況を理解したらしく、驚いたような顔をおれに向けた。
「これ、鴇田くんが入れたんだよね」
「うん……排出率は低めにしておいたんだけど、当たっちゃったみたいだ」
気恥ずかしさで碧さんの顔をまっすぐに見られない。これじゃあ昨日とは真逆だ。
「ありがとう」
なにが「ありがとう」なのか。横目で見た碧さんの頬が嬉しそうに上がっている。
「わたしと手つなぎたいって思ってくれたんだね。ありがとう」
満面の笑顔で子どもみたいに浮かれている。
そんな嬉しそうな顔しないで欲しい。こっちがドキドキする。
「じゃ、つなごうか」
そう言っておずおずと左手を伸ばしてくる碧さん。震えている指先の中でも薬指が痙攣するようにピクピクしていて可愛かった。手をつなぐと言っても初めてのときはどうしたらいいのかわからないもんな。
「えと、じゃあ、遠慮なく」
「あ、待って」
指先に触ろうとしたら磁石みたいに弾かれた。
「ごめんなさい、爪に絵具が入り込んじゃってる。水道で洗ってくるから」
とターンした指先を思わず掴んだ。
「いいって」
勢いよく走り出そうとしたところへ力いっぱい引いたもんだから、急ブレーキがかかった碧さんの体がおおきく跳ね上がる。
はっとして振り返った碧さんと目が合う。その瞳があんまりキレイに見えたから思わず手を離してしまった。碧さんはよろめきながらも体勢を立て直す。
「ごめん……思わず」
いまになって恥ずかしくなってきた。
碧さんに触れた指先が焼けただれたみたいに熱くなってくる。
「ううん」
碧さんはおれが触れた指先をもう片手で包んで立ち尽くしている。
「……手、つないじゃったね」
「うん。つないだ」
「これで今日のアクションはクリアだね」
「うん」
彼女の口ぶりからすると、アクションを完了した時点で解散というわけだ。
「え、と。ガチャは一日一回だけなんだっけ」
なんだか離れがたい。
「うん。特にアプリに制限がされているわけじゃないけどね。お望みなら、わたしにお金払って課金すればもう一回まわしてもいいよ」
「本気で?」
「冗談だよ」
おどけて舌を出す。こんな顔クラスでは見たことない。
「ガチャは一日一回だけど、達成したアクションは一回だけ変えることができるよ。マンネリ化しないように」
「おれはべつにこのままでも――あ、いや、でも」
おれとしては明日も『手をつなぐ』が出てもいいけど。
「ちょっと考える」
「うん。十二時間以内なら変更できるから、ゆっくり考えてみて。それじゃあ」
碧さんは左手をさすりながらそそくさと帰っていく。
おれは自分のスマホを取り出してアプリを起動した。
『手をつなぐ』の項目が点滅して修正可となっている。
「……よし、これで完了」
スマホをポケットにしまいこみ、鼻歌を口ずさみながら帰路に就いた。
まだ指先が熱い。こんな熱さは初めてだ。
本当はもっともっと触れていたかった。
だから。
『手をつないだまま一時間お喋りする』に修正した。
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