第1話 粘着系魔術師の願い 三頁


「貴様の方こそ失礼だっただろう、ゲルフォルト」

「あ。やっぱり大根精霊」

「汝に大根精霊呼ばわりされる謂れは無いわ!ちょっと嫁が怖いだけだ!」

「ああ…苛烈で有名なラシャームさん」

「何故我の嫁の名を知っている!?」

「あんたの出て来る神話を調べたのよ。雷の精霊・ゲルフォルト・オードギル。かつて人間の英雄だった男が、戦死して最高神に召し上げられ彼女の使役する精霊となった。人間であった時の異名は『雷人』。その名の通り先代雷の精霊の加護を得て雷を自在に操った。精霊になってから、苛烈過ぎて嫁の貰い手の無かった炎の精霊・ラシャームと結婚、息子が一人、娘を五人もうける。どう?間違ってるかしら?子供の名前まで言ってみる?そもそもラシャームは…」

「めっちゃ調べられてる!怖い!誰だ『あの本』を後世に残した馬鹿は!」

「貴様の嫁は、そんなに凶暴なのか?」

「きょ、凶暴って言い方は止めてくれませんかね。一応恋女房なんで」

「まぁ、いい。貴様の家庭事情など興味は無い。調べものに関して貴様にその姿をとらせたのも大して意味は無かったようだ」

「やっぱりゲルフォルトの千里眼かなんか使ったのね」

「我の知らない所で我の能力が筒抜けになってる!」

「貴様に興味が湧いた。だから調べさせたのだ。卵の代償に」

「卵の代償?」

「いや…昨日貴様が負け犬の如く逃げ去った後」

「いちいち気に障る言い方しかできねーのか」

「この大根精霊がのこのこ現れて『卵はおひとりさま1パック』とか藁にもすがる声音で懇願してきたため、この俺がスーパーマーケットやらに入ってやったのだ」

「マジかよ大根精霊…この男と精霊姿のお前って目立ち過ぎるだろ…」

「大根はやめろ!仕方あるまい、下の娘二人がまだ幼い故、弁当に卵を大量消費するのだ」

「『後ろに立ってるだけでいいので』と言われたので一緒してやったのだが、結果的にこいつは雷の化身だろう。千円札を出すと燃える事に気付いて、俺が会計までしてやる羽目になったのだ」

「大根精霊、頭大丈夫かよ…そしてあんた意外と優しいな」


 なぜこんな所で大根精霊基い、ゲルフォルトの話題になっているのかよくわからないが、とにかくその卵の代償とやらでこの精霊は能力を使わざるを得なくなったらしい。

 恐らく私の知っているこの精霊の七つの能力のひとつ、千里眼。遠くを見通す能力だ。こいつらが買い物をしている間に、私は川沿いで異様な光景を目にしてしばらく唖然としていたから、帰り着く前、つまり結界の中に入る前に見つかっていた、かも知れない。

 たぶんそのあとゲルフォルト宅に大根と卵を届けて、私がその部屋から出てきてどこへ行くのか監視していたのだろう。うわぁ、大根精霊、ストーカーの疑いも掛けられたぞ。ほんとくそ精霊だな。全部この男の命令だろうけど。


「それで?大根卵精霊の話はもういいわ。もう一度聞く。私に何の用?」

「なんか足された!?」

「貴様がセドリとやらと言う説明はよくわからなかったが、貴様が魔術書を詠唱する場面は間違いなくこの目で見た」

「それが?」

「質問は二つ…俺はとある魔術書を探している。貴様がその魔術書に出逢った事があるかどうか。確認したい」

「そんな事?そんな事で私のキャンパスライフを削ったの?許すまじだぞくそ魔術師」

「悪いが俺も必死でな。『黒鉄こくてつ蘇術そじゅつ』。この魔術書を知っているか?」

「『黒鉄の蘇術』?…あんた、なんてもの探してるの…それ、死者蘇生の魔術書じゃないの」

「ほう、覚えはあるようだな。…だがその反応では実物を目にした事はなさそうだ」

「当たり前でしょ、あの魔術書が見つかったら数億の値がつくわよ。原本じゃなくたって欲しがってる魔術師はたくさん居るわ。そんな大物早々ゲットできるわけないでしょ。普通の人間なら死ぬまでお金に困らないくらいの額が転がり込むわ…」

「魔術の効果よりも金に目が行くのか。面白い女だ」

「中途半端な魔術師があれを使ったら、上半身を本に食い千切られたって噂があるけど、私は別に魔術師じゃないし、そこまでして人を生き返らせたり、危険な橋を渡る気も無いわ。それともなに?魔術書の中身では無く、魔術書自体の持つ魔力の方が目的だったりするのかしら?」

「それは貴様には関係ない」



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