第103話 何かしら付いてきました? (35)

 まあ、そういった訳だから、静かに息を殺して聞いてみるよ。下の部屋の会話をさぁ。


「えぇ、ええええええっ! そっ、そんな……」


 ……あれ?


 今俺の耳に、町長の大きな声が聞こえた気がするよ?


「ん? 町長、何かわたくしに文句がありますか?」

「……えっ? いっ、いえいえ、何も御座いません、女王様……」

「そうですか、ではよろしい」

「はい……」

「それよりも、町長──少し尋ねたい事があるのですが?」

「えっ? 何で御座いましょうか、女王様?」

「う~ん、うちの主人がこの店に着ませんでしたか?」


『……ん? どっ、どうしよう?』


 うちのカミさん、町長に。俺がこの店にこなかったのか?


 と、尋ね始めたよ。


「(まっ、魔王様?)」

「(ん? なに?)」

「(今フレイヤ様、町長に。魔王様がこの店にこなかったのかと尋ねていたよ)」

「(うっ、うん、そうだね……)」

「(何で魔王様がここに居るって分かったの?)」

 まあ、こんな感じでね、お蝶さんに尋ねられてる俺だけど。何でうちのカミさんにこの店にいる事がバレタのか不思議でならないよ。

 だから取り敢えずは、お蝶さんに。

「(う~ん、良く分からん)」と、だけ答えた。

「(そうなの?)」

「(うん……)」

「(そうか……)」で、二人の会話が途切れて──その後は、また息を殺しながら、下の部屋の会話を聞く耳立てた。


「まっ、魔王様ですか?」

「はい、そうですよ。どうもこの店に入ってから、『クンクン……』うちの主人の匂いがするのですが?」


 俺今のカミさんの話しを聞いて──俺は思わず、自分の身体を匂い始めたよ。そんなに体臭がするのかな? と、『クンクン』と、匂い始めたのだが……。


 そんなに体臭はしない気もするけれど?


 なんか若い俺は、少しばかり傷づついたな……。


 と、思いながら、お蝶さんに「(匂う?)」と尋ねた。

 すると、お蝶さんは、顔と手を左右に振って、「(別に匂わないよ)」と、小さな声で述べてくれたよ。


 だからホッとした俺だけど。

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