第6話 おまけ

 ある6月の晴れた日曜日。今日もレイはセント・マリエル女学園が運営する乳児院に、ボランティアにきていた。シスター達にまじって、赤ちゃんにミルクを飲ませたり、オムツを取り替えたりする。ずらりと30いくつ並べられたベビーベッドに眠る赤ちゃん。全員が孤児だったり、親が育てられなかったりする赤ちゃん達だ。

 赤ちゃんをあやしながら、レイはこの子達の未来が、健やかで幸せに満ちたものであることを、願わずにはいられない。

 

 夕方になり、お手伝いを終えて学園へもどろうしたレイをひとりの人物が呼び止めた。

「やあ、ひさしぶり」

「クーガ……じゃなくて、ゲイリー……」

「どっちでもいいよ。もっともあんたにとっちゃ、あたしはずっとクーガかもしれないけどね」

 大型バイクを車道のはしにとめて、またがったままで手を振っている。

 ちょっと見カッコイイ黒人青年。ゴーグルの下の右目は義眼で瞳の真ん中に蜘蛛が入っていて、右手は義手なんてことは見ただけではわからない。しかも女性だとは。

 レイは近づいて、

「元気そうね」

「うん。あの時は世話になったね。お礼も言えなかったから、気になってたんだ」

「いいのよ。気にしないで」

 笑顔であいさつをかわしているが、妙な緊張感が漂っている。

 クーガがレイをたずねてくるといえば、用件はなんだろう?

「実はどうしてるかと思って、久しぶりにジュリーに電話したんだ。そしたら大変なことになってるって、ジュリーに泣きつかれた」

「そうなのよ、まったく想定外だったわ。ジュリーが妊娠してるなんて……」

「ジャックの子供だって喜んでたけど……あんたらにしたら生ませたくないんだろ? いずれスカイフォークグループを継ぐ子供が黒人とのハーフじゃ……」

 ジュリーはビーストとのことはクーガに話さなかったらしい。なら教えないほうがいいだろう。

「生ませてやれよ。母親になったら、あいつもちょっとは落ち着くかもしれないし」

「ジュリーが落ち着くとはとても思えないけど……会長は、孫が黒人とのハーフでもまったく気にしないって言ってたわ。むしろ生まれてくるのを楽しみにしているの。すでに男の子でも女の子でもいいように産着からおもちゃまで用意させてるわ。まだ妊娠3ヶ月なのに」

「よかった。じゃあ問題はあれだけだな」

 やっぱり、そっちか。

「そうなの。昨日もジュリーを投げ飛ばしちゃって……触らないでって言ってるのに、不意にくるんだもの。ちゃんと着地してくれてよかったわ。妊娠3ヶ月っていったらまだ安定期じゃないでしょ? 流産とかしゃれにならないし……」

「あんたをどうにかしてほしいって、ジュリーに泣きつかれた。あんた接触恐怖症なんだって? ジュリーが心おきなくあんたといちゃいちゃできるように、治してやってくれって……」

 レイは、はあーっと長いため息をつく。

「それで、わたしにあなたと寝ろと?」

「……あんたが快感に目覚めたら、接触恐怖症を克服できるはずだってジュリーが言うんだ……あたしはいいけど、あの時のお礼にね……あんたが試してみる気があれば、協力するよ」

 レイは悩んだ末に、

「わかったわ。わたしもいいかげんこの性癖はどうにかしないといけないって、思ってたの。あなたのテクニックに期待するわ」

「期待はずれにならないといいけど……」

 予備のヘルメットを渡される。レイはお団子頭の髪をほどいた。つややかな黒髪がサラりと腰まで流れる。

「危ないからしばっとくといいよ」

 スカーフを渡されてそれで髪をまとめ、ヘルメットをつけてバイクの後にまたがる。

 なんだかとんでもないことを承諾したような気がする。

 レイの不安をよそに、バイクは快音を上げて走り出した。


町はずれのモーテルにつれていかれた。

「ここ?」とレイは眉をひそめる。

 日曜日の夕方、車が何台も停まっている。古びて安っぽい建物はなんとなく不潔っぽい。

「どこもこんなもんさ。あんた潔癖症の気もありそうだから、ついでにそっちもなんとかしようよ」

「わかったわ」

 レイはまた深いため息をはいた。

 ジュリーのお腹の赤ちゃんのためだ。大抵のことはがまんしなきゃ……


 モーテルの部屋は狭くて、大きなベッドが占領してて、すみのほうに小さな丸い木のテーブルとイスがふたつあるだけ。

 壁は薄くて、両隣の声が丸聞こえだ。いろいろやっている声が。

「脱いで」とクーガがいう。

 レイは紫色のチャイナ服のボタンをはずし、上着を脱ぐ。ズボンも脱いで、床に落とす。

「全部」とまたいう。

 覚悟を決めて、アンダーシャツを脱ぎ、下着も脱いで服の山の上にのせる。

 全裸になって、クーガの前に立つ。

 クーガは全身を上から下まで眺め回す。

「なるほどね。骨格がしっかりしてるし、筋肉のつき方も効率的だ。あんたのパワーの源はそれか。姿勢もすごくいいね。余分な力が入ってなくて。何かあってもすぐ対処できるような、強靭でしなやかな身体だね」

 レイに近づいて、長い黒髪をまとめていたスカーフをほどく。流れる黒髪をすくいとり、

「きれいな髪だね……ジャスミンの香りがする……」と口元に当てた。

 レイは反射的に手刀を放った。クーガの右手がそれを、がっしと受け止める。

「……これじゃ、危なくて仕方ないな」

「あなたの右手、義手だったわね」

「生身だったら、骨が砕けてるよ……握力だけなら、あんたと同じくらいありそうだけど……」

 クーガは髪から手を離す。

「いつもそんな感じ? 普通の友達にもそうなの?」

「今のところ反応するのはジュリーとあなただけよ。よこしまなオーラを感じるのは」

「ひどいなあ。よこしまだなんて」

 くすくすと笑う。


「ベッドに上がって」とクーガがいう。

 レイはベッドに上がる。

「悪いけど縛らせてもらうよ。あたしも生命が惜しいからね」

 ポケットから革の手かせと足かせを取り出す。長いひもがついてる。

「内側に毛皮が張ってあるから、痛くないよ」

 レイは眉をひそめて、

「いつもそんなものを持ち歩いてるの?」

「たまにね、おしおきしてほしいって人がいるんだ」

「まさか、ムチで打ったりしないでしょうね?」

「打ってほしいの?」

「とんでもない」

「よかった。あたしは人が痛がったり苦しんだりするのはあまり見たくないんだ。気持ちよがったり、喜んでくれる方がいい。だからこれは保険。あんたにはこれを引き千切るくらい造作ないだろうけど。千切らないように集中してくれれば、こっちも安心して仕事ができるしね」

「……わかったわ……」


 レイがベッドの中央に横になると、クーガはまず右手に手かせをつけ右上のベッドの柵にくくりつける。それから左手も同じように左上の柵にくくりつける。内側にふわふわの毛が張られていてしっかり固定されても痛みはない。ちょっと引っ張ってみて、これなら簡単に引き千切れそうだと思う。むしろ千切らないでいるほうが神経を使いそうだ。

「身体を下にずらして。ヒモがぴんと張るように」

 レイがそうすると、今度は右足に足かせをつけてベッドの右下にひもをむすびつける。左足も同じようにする。ベッドに手足を広げた状態ではりつけにされる。

 これはちょっとというか、かなり恥ずかしい。屈辱的だ。

 クーガはさっきのスカーフを手にとり、レイの目にまきつけた。

「待って。目隠しはいやよ」

「その方が感覚が鋭くなっていいんだよ。イヤならもうこの先はなしだ」

 レイはもう一度深いため息をついた。

「……わかったわ」

 クーガはくすりと笑う。

「いいかっこうだね。すごくそそるよ」


「ひとつルールを決めとこう。あんたはあたしにあれこれ指図しないこと。あれがいやだ、これがいやだって言わない。あたしがリードして、あんたはそれに従う。いいよね?」

「いやだけど、仕方ないわ」

「いい子だ」

 肩に触れる。そっとなで、腕を伝って手首へ、手の平にちゅっとキスされる。

 レイはびくっと身をすくませる。次にどこをさわられるかわからないのはとても不安だ。

 皮ヒモがギシッと鳴る。引きちぎるのは簡単だ。ちぎらないように注意しないといけない。

 クーガが服を脱いでいる気配がする。

「肌を触れ合わないとね」

 ベッドが揺れてクーガがレイにおおいかぶさる。全身が密着する。アンダーヘアが触れ合う。

 頬を両手に挟まれて唇にキスされる。

「あんた、あの時のこと後悔してるんだろ? あたしが最初にジュリー抱いたとき、自分がそばにいれば阻止できたかもって。ジュリーがあんたに恋焦がれていたとき、身体を許してれば、ジュリーがあたしの誘惑にのらなかったかもって……泣けるよねえ。いくらボディガードったって、普通そこまでしないしないだろ?」

「……ジュリーはわたしの始めての友達だから……特別だから……」

「愛してるの?」

「……わからないわ……」


 クーガの指先がレイの肌をなぞる。手の平でなでる。腕と脚。胸とお腹。

 ぶるっと寒気を感じたように、身体がふるえる。

 だめ。おさえて。ヒモを切りたい。切ってはだめ。集中して……

 指先が乳首の先をつんと突く。身体がぴくんとしなる。それから乳房をゆっくりともまれる。

 レイは歯をくいしばる。

「力を抜いて……深呼吸して……そんなにくいしばってたら、唇が切れちゃうよ」

 唇をなめられて、キスされる。何度も。

 指先の動きはなめらかで、やさしく肌をすべっていく。なのに感じるのは、羞恥と不安と嫌悪感……

 乳首をなめられる。赤ん坊が吸うように、乳首を吸われる。

 レイの全身に鳥肌がたつ。

 身をまかせようと決心したとき、多分こうなるだろうと思っていた以上の気持ち悪さで、吐き気がする。なぜか涙がにじんでくる。

「ああ……もう、やめて……」

「それは口にしないルールだろ?」

 なおも乳首を舌先で転がされて、うめき声をのどで押し殺す。

 おへそのまわりをくるっとまわって、指先が下へ向かう。

「指を入れるよ」

 指先が秘められた部分にゆっくりと入ってくる。

「もう一本入れても大丈夫だよね?」

 指を2本入れられて、思わずその部分に力が入る。

「力を抜いて。これじゃ動かせない。深呼吸して……」

 レイはいわれたとおり、ゆっくりと息をはき、息を吸う。

「そう。それでいい」

 クーガの指がレイの中でゆっくり動く。同時に親指でクリトリスに触れる。

 新たな衝撃が、身体をつらぬく。

 クーガの指先がそこをもてあそぶ。ぬきさしされて、レイの唇からは悲鳴が、目からは涙があふれだす。

「……やめて……もう、これ以上は無理……」

「やめないよ。ここはね、もっと、もっとしてって、腰をふらなきゃ……できるよね?……」

 唇で乳首を吸いながら、もう片方の乳首を右手でつまんで、左手でレイの中心をもてあそぶ。3点同時にせめられて、レイは苦痛にむせび泣く。

「……いやよ……いや……」

 手に足に力が入る。だめ、ヒモを切ってはだめ……

 でも、いつまでこんな責め苦が続くのか……

「……力をぬいて……深呼吸して……つらいだけ? 少しも気持ちよくならない?」

 レイは泣きながらいう。

「……少しも気持ちよくなんかない……さわられるのは、がまんできない……」

「強情だなあ」

 クーガは指をぬいて、

「ジュリー、あんたも手伝って」という。


「えっ? ジュリーがいるの?」

「うん。あんたに目隠ししたあと部屋にこっそり入ってきた。さっきから自分も仲間にいれろって圧がすごい」

「はあ!?」

 そういえば、さっきから鼻息が荒く聞こえていたけど、てっきり隣の部屋のものかと思っていた。

 クーガが目隠しをとると、ジュリーの満面の笑みが眼前にあらわれる。

「やっほー、あたしよ。もうさっきからうずうずしてたわ。あんたのこんなおいしそうな場面見せられて、おあずけくってたんだから」

 がばっとレイに抱きつく。

 いつもなら投げ飛ばされるところだが、皮ヒモがギシッと鳴って、レイははっとして動きを止める。

「ヒューッ」とジュリーは口笛を吹き、「いいわねこれ……いただきます!」

 ためらいもなくレイのそこにちゅっとキスすると、なめはじめた。ぺちゃぺちゃと音をたてて、おいしそうに。

「ゲイリー、あんたは上の方ね」と合間に指図する。

「うん、いいよ」

 クーガがレイの瞳をじっと見て、にこっと笑いかける。コハク色の瞳。右目の中に小さなクモがいる。そういえばこんなに真近で見るのははじめてだ。見つめられると魔法にかけられたみたいになるってジュリーが言ってた……

 クーガはレイの胸をもんで、乳首をなめはじめる。

 2倍どころではなく、4倍くらいに感じる。

「……ジュリー……待って……」

「待たない! あたしがどんだけ待たされたと思ってるのよ!」

「……あ……あん……くう……」

 ジュリーの舌が中にさしこまれ、クリトリスをなめる。

 それははじめての感覚だった。しびれるような、うずくような……その先にあるのは、甘い陶酔……

 目の前を白い閃光が走る。

 足の先までふるえた。

 頭がぼうっとする。

「おや」

「あっ」

 ジュリーとクーガがハイタッチして、

「イったね」

「やっぱり、あたしのなめ方がよかったんだよ」

「ジュリーが下の口のファーストキスはゆずらないってごねるから」

「当然じゃない。今回、あんたはただのお手伝いなんだから……でも、レイが今の感じを忘れないうちに、もう一回やろう。次はあんたが下ね」

「どっちでもいいよ」


 放心状態のレイの上で位置をいれ変えて、もう一回はじめる。

 ジュリーはレイの肩から腕のしなやかなラインを心ゆくまでなで、

「はーっ、思ったとおり、陶器みたいな手触り」

 それから小ぶりだけど形のいい乳房を両手にもってもみもみする。人差し指と中指のあいだに乳首をはさんで、くにくにする。

「気持ちいいでしょ? レイ?」

 唇にキスする。

 レイはふるふるとふるえて、

「あ……ああ……もう……だめ……」とまたイってしまった。

「えーっ、ちょっと待って、早過ぎない? まだ1分もたってないよ?」

 クーガが手の甲で唇をぬぐって、勝ち誇った笑みを見せる。

「だから、あたしが本気だせば、こんなもんだって」

「はあ?! もう一回やろう。今度はあんたが上よ」


 結局3回もイかされて、レイはへろへろになった。ベッドの上で力なく横たわって、失神状態。

「レイ、かわいい……」

 つややかな黒髪が寝乱れて広がるのをすくい取り、なでる。

「じゃあ、もういくね」

「うん、ありがとね」

「またな」

「またね」

 服を着て出て行くゲイリーを手を振って見送る。

 ジュリーはレイを抱きしめる。

「レイ、好きよ。やっと思いがかなった。これからもずっと仲良くしようね」

 ちゅっと頬にキスする。

 と、突然、ぶちっと音がしてレイの右手の皮ヒモが千切れた。次に左手が。両足は同時に。

 ジュリーはヒラリとベッドから飛び降りた。

「ま、待って、レイ。落ち着いて」ドアの方へあとずさる。

 レイの目は完全にすわってて、ヤバイ。ベッドを両手に高々と持ち上げる。

「ひいっ」

 間一髪で部屋を飛び出て、ドアを閉めた直後にベッドが投げつけられる。

 ドカンとものすごい音がして、建物中がきしんだ……


 はっとしてジュリーが目覚めると、そこは自宅のベッドの上。

 なんだ夢かあ……それにしてもすごいリアルな夢だったなあ……

 レイの感触が指先に、舌には愛液の味が残ってるような気がする。

 と、そこへ電話のベルが鳴る。

 誰からだろう? 友達か? もしかしてゲイリーからだったりして……

 ジュリーは受話器に手を伸ばす……


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愛しのチャイナドール ジャスミン・K @wvrdg299

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