第30話

第30話 地獄から来た男


「…まあ簡単にいえば無理心中に巻き込まれかけたんですよ。ひどい親でしたよ」


「はーん、それでお前だけうまく生き残ったわけか…ガキのくせに親が死んでる、さらに地獄行きなんて確実に精神にダメージ与えられるパターンなのによ…」


「そういう手口だったんですね…。先に言った通り、あいつらが何かの手違いで天国なんざ行ってたら引き摺り下ろさなきゃいけないとこでしたよ…」


「カハ!恨みが深いなあ!ま、俺も親なんざ嫌いだったなあ…。さてと、時間稼ぎもこんなもんか。力もだいぶ戻ったところだ。2回戦と行こうか。…1つだけ聞いていいか」


「答えられるなら答えましょう」


「お前より強い奴は人間界にいるか?」


「いますね、少なくとも1人」


「カハ!地獄よりよほど地獄だな!…そうか。ならば」


シイナは自らの手にメスを刺した。


血が地面に垂れ、その血を吸って

大量の泥人形が姿を現した。


「本気で行こう」


「…支離滅裂ですね。ここで例え私を打倒しても、現世には私以上がいるのに。無意味だとは思わないんですか?」


雅信が構えを取る。


「どうせ、さっきやられちまったお前を殺さなきゃ。現世にすらたどり着けねえんだ…おっと、殺しちゃいけねえ。お前には門を開けてもらわにゃなあ…」


シイナが右手を上げると泥人形が一斉に攻撃の準備をとる。


「安心してくださいよ」


両者は歯をむき出しにして笑った。


「私は死にません」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


泥人形が一斉に飛びかかる。


グジャァッ!

雅信の拳が一気に5、6体をまとめて粉々にする。しかし、すぐに形を取り戻す。


(再生がさっきより早い…)


前からも、後ろからも飛んでくる攻撃をさばきながら本体に攻撃を当てる方法を思案する。


その瞬間足元の泥が奇妙な動きを見せる。


咄嗟に上へと避けるが泥が足を掴む方が早かった。膝ののあたりまで泥で固定される。


腕を前で組み衝撃に備える。が、そんなものはシイナの動きに合わせて生まれた巨大な泥の拳の前では役に立たない。


ドゴォッ!!!!!!!


打撃は後ろ向きに飛べばある程度ダメージを減らせる。しかし足は固定されてる。つまりほとんどの衝撃は彼の体に叩き込まれる。


(腕は…折れたか…)


雅信の激痛などいざ知らずシイナは横からも拳を叩き込む。


ドグシャァ!!!!!!


と、同時に足元の泥もろとも粉砕され、壁際へとぶっ飛ばされる。


しかし、雅信はすでに治った腕で激突を避け、足で壁を蹴りシイナに殴りかかる。咄嗟に泥で壁を作るも雅信はそれを軽々砕く。が、さらに泥人形が行く手を阻む。


「邪魔ァ!」


まさに鬼神の如き力で泥人形を破壊するが、天井以外は泥で埋め尽くされた研究室。キリがない。


(さっきとはまるで違うな。これが…本気か…!)


雅信もさばききれず、何度も攻撃を食らう。腕は折れ、内臓は潰れる。しかし鬼神アリスの再生力は何にも負けない。


少しずつシイナに疲労が見える。先ほどの巨大な拳はもう出せないようだ。


そして少しずつ、少しずつ人形の数は減っていった。


その時は訪れる。


雅信は、腕をあらぬ方向に折られ、足を引きずりながらシイナの元へ向かった。


「カハ…!ズルすぎるだろう…その不死身は…って、なんで再生してねえんだ…限界か!ならば!」


「あ、いや意図的に治してないだけです。不死身は友達にも隠してるんで。すいませんね、こっちも仕事なんで」


「なんだよ…あと少しなら、って思ったのによ。…まあ、いい。俺の研究成果はこれで全てだ…。それなのにこのザマだ!俺自身の力がもう少しありゃあな…」


「いやいや、そうはいっても多分、1度か2度死にかけてますし、最後の2体にはこんなにもボコられました。手強かったですよ」


「お褒めに預かり光栄だぜ…。2度目の死、かあ…。どこに行くんだろうなあ?」


「…さあ?あなたも馬鹿ですよね、なっちゃんさえ傷つけてなけりゃ、ぶっちゃけここで見逃してもいいくらいでしたよ。」


「…はあ?おまえあれだけ怪我して…はいはい不死身だもんなあ!…あの女か。そんなに好きか?」


「好きか…ですか。そういうわけではないんですけどね…まあ話もこの辺で。3回戦なんてやられたら流石にたまりません」


「あーもう無理だ、ちょっとやそっと休んだって戻らねえよ。一思いにやれ」


「では、お言葉に甘えて。あの人達のこと、教えてくれてありがとう」


「はっどういたしまして」


グシャッ


膝立ちのシイナの顔面に、雅信のつま先が突き刺さった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


城波神社の前に空間の歪みができ、そこから血まみれの少年が現れる。


足を引きずりながら、彼は慣れたように地下へとつながる扉を片手で開ける。


1つ1つ階段を下り、迷うことなくとある部屋の扉を開ける。


部屋の主の少女はその少年の姿を認めるなり、口をぽっかりと開け呟いた。


「嘘…なんで…」


少年は屈託のない笑顔で


「ただいま!真春さん。…これ治せますか?」


申し訳なさそうに尋ねた。




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