第29話
第28話 雅信の過去
「どういうことよっ!?」
真春が霧子に詰め寄る。
満身創痍でしかも3人で帰還した訳を話したからだ。
「雅信くんは…私たちを逃がすために…身代わりに…」
「見捨ててきたって言うの!?」
「そんな…ことは…」
「私が…私の力がもう少し強ければ…私の足がもっと早ければ!!」
奈美の腕には今もあの瞬間の「重さ」が切れる感覚が残っていた。
真春も分かっている。奈美たちを責めることはできない。悔しいのは、悲しいのは、苦しいのは彼らだって一緒だ。
でも、こんなにもあっさりと。どうして。どうして。どうして。どこに感情をぶつければいいのかわからなかった。
「助けに行かなきゃ…」
「…地獄への門は1日に1度しか開きません。ですから…」
「明日まで!そんな化け物が山ほどいる場所に!1人で!生きてられるはずがないじゃない!…どうすれば、どうすれば、どうすれば…!」
「…きっとあいつは死なない」
「…気休めはよしてよ」
「これは…俺とあいつが秘密にしておいたことなんだが…ああいう状況になることが1つの予想としてあった」
「どういうこと…?」
「前のオッドベノンの事件から、俺たちがやってることはとても危ないことだと分かった。だから俺はこうやってバイトをするときにサンサンとルナルナの知恵を借りてありったけの『予想』を立てることにしたんだ」
「その中の1つに…この状況があったってこと?」
「あぁ…だからそうなった場合には…あいつが…『僕が囮になる』…と」
「それと…死なないことと何の関係があるのよ…」
「…あいつの神様の能力は」
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「いだだだだだだだ…何度やってもなれませんねえこの痛みは」
肘から先のなくなった右腕を抑えながら雅信が呻く。
「はっ、かっこいいねえ。仲間の身代わりにってやつか。お陰様でこっちは3人も器ざ無くなっちゃったよ…」
一呼吸置いてシイナの声音が一変する。
「ふざけんなよ…。計画がまた逆戻りだよ…!お前は…殺す。どうせお仲間が助けに来てくれるだろ?そいつらにお前の死体を見せて…それでそいつら使って現世に行けばいいや」
「そんなこと…させる訳ないでしょう」
「はっ!そんな体でよく言うぜ!辛そうだなあ。うちの泥人形もそこまで出力が上がってたんだなあ。てめえらみたいな仕事してる奴らの腕ちぎれるなんて」
「あぁ…勘違いさせてしまったらごめんなさいね。これは自分でちぎったんですよ」
「あ?」
「ほんっと毎度のことながら手荒ですよねえ…なっちゃんあれ絶対トラウマですよ」
雅信が虚空に向かって呟く。
と、同時に美しい女性が姿をあらわす。
「だって仕方ないでしょう。旦那様異界適性度0なんですからあ…無理やりにでも私の血を多めに入れないと力が発揮できないんですよー」
「それもそうですねえ…」
「何の話だ…?」
「ひゃー陰気な場所。さっさと帰りましょうよ。…唱えてくださいますか?」
「ええ…『神憑変化』」
雅信の体が光に包まれる。
「なんだよ…お前変化してなかったのかよ」
「ええ、だからこっからが本番です」
そう言う雅信の頭には日本の角が生え、無かったはずの右腕には鋭い爪を持った鬼のような腕が生えている。
「あぁ…?なんで腕が生えてんだ?」
「あぁ…。私の、いやアリスさんの能力は…」
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「「不死身の再生」」
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「不死身…?」
真春が聞き返す。
「あぁ…だから何かが起こった場合、あいつは自分が囮になると俺に言ってくれていた、それに」
「それに…?」
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「なんなんだ…なんなんだお前はよお!」
「ほんっとうに脆いですねこの泥人形。そろそろ帰っていいですか?閻魔様に行って開けてもらうんで」
「お、お前ごときが…お前ごときが…あぁぁあ!」
叫びながらシイナがメスのような刃物を投げる。避けきれずに頰から血が出る。も、すぐに跡形も無く消え去る。
しかしその血は泥を通り、シイナの元へ届けられる。
「…!!は、ははは!この血!この血かあ!」
「僕の血がどうかしましたか?」
「お前の親…地獄にいるぞお!!はは!ハーッハッハァ!ひどい親だったんだろうなあ!どんな気持ちだあ!?今!?」
「それはそれは…」
「かわいそうになあ!親がクズで!2人して地獄落ち!最悪だよなあ」
「よかった」
「ははは…はあ?」
「あの2人が地獄に落ちてなかったらなんの手違いかと思いますよ」
「お前、親が嫌いなのか?なんだ…つまらん」
「すみませんねえ、憎んですらいますよ。ひどい目にあいましたから、私にとっちゃあのころ地獄は落ちる場所じゃあなく
帰る場所でしたから」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ちょうど10年前、この街で3人家族の心中未遂事件があった」
「覚えてるよ…子供1人だけ生き残っちゃったんだっけ…」
その瞬間その場にいた4人がハッとする。
「その生き残りがあいつ、雅信だ」
「そんな…」
「そして奴にとっての命の恩人が」
士郎が奈美に向かって指を向ける。
「あんたらしいんだ」
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