死んでたまるかちゃん。11


「…脳ですか」

「その通りです。どの医者も、万が一彼女が脳を負傷した場合は、解らない、と」


 この男は誰なんだ。頭がぼーっとする。傷が灼けたみたいに熱くて痛い。たかが弾丸が掠ったくらいで。あいつ、あいつはもっと、いつももっと酷い怪我をしていた。『手術中』の文字は相変わらず赤く灯ったまま。頭、撃たれて、負傷とか、言うのか?だったら、俺が。


「君」

「…」

「なんで君が撃たれなかったんだ」


 はっきり言う人だな。俺もそう思ったとこだ。


「何故、死にたい、死のう、そう思っている死にたがりの君が」


 なんでこの人、俺のこと知ってんだ。


「いつもいつも隣にくっついていて守れた試しも無い。守ろうとして彼女を傷付けたこともあったくせに、性懲りも無く一緒にいて、今度は君が自業自得の不幸に彼女を巻き込んだ?いざ、死ぬとなったら彼女が庇った?そんな時に限って、彼女が、頭を撃たれた?」


 胸倉をつかんで引き上げられる。すごい力だな。怒ってる。首絞まってる。苦しい。


「彼女は君の盾じゃないんだぞ!?彼女は…私の妹は身代わりの道具じゃないんだぞ!!頭を撃たれれば、人間は死ぬんだ!!いくら回復力があっても、脳だけは…!!」


 死ぬって言いたいのか?あいつが、死ぬって?


 俺はあいつのこと、何も知らない。兄ちゃんが居るとか今知った。俺のこと、兄ちゃんに話してたことも今知った。何も知らないあいつが、何も教えないで死んで行く?


「認めない」

「何?」

「あいつが、希が死ぬなんて俺は認めない」


 認めてやるもんか。俺は、ひとつだけ知ってるこの「のぞみ」を信じる。


「死んでたまるか」

「!」

「『あんたより先に死んでたまるか』。あいつはそう言った。俺は生きてる。だから、あいつは、絶対に、死なない」

「何をバカなことを…」

「恋人が目の前で撃たれりゃ、誰だって動揺しますよ」

「恋人!?」

「周辺の事情聴取で撃たれる直前に喧嘩しながら告白し合っていたのが目撃されてます。この二人らしいといえば実にらしいですね。…お兄さん、この人は死にかけていた妹さんを助けた後も、あなたのおっしゃる通りずっと傍にいて、守ろうと努力してきた人です。そして、妹さんが大好きで、妹さんを傷付けるこの世界が大嫌いで、あれだけ毎日彼女の惨状に立ち会いながら、『自由』な彼女を守りたい。そう言った」

「ッ、」

「あんたの守っていた『檻』の中じゃ、彼女が永遠に見つけられなかったもんですよ」


 何の話か全く解らん。俺より、そうだ、あいつの恋人になったはずの俺より、救命戦士共の方が色々知ってるってどういうことなんですか?お前が好きって言ったのは、俺だよな?覚えてるぞ。誰が忘れてやるもんか。真っ赤な顔、恥ずかしそうな好き。なんかイライラしてきた。おい。おぉい、殺しても死なない女さん?俺に説明は?死んでる場合ですか?


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