死んでたまるかちゃん。6
そしたらこいつが死にかけてて『驚いた』。つきまとわれて『うんざりした』。初めて目の前でこいつの危機を感じて『心配になった』。こいつが救命に連れて行かれるその度に『心細さが募った』。終いにはこいつが明日も俺に連絡寄越すのか『不安』で、今はこいつがどんな形にしても俺の隣から居なくなるのが『怖い』。ろくな名前の感情が無い。
でも、こいつが毎日笑顔で現れると、そんなもん全部吹っ飛んじまうようになった。
こいつと出掛けるのはたのしい。こいつが笑うとうれしい。こいつが俺のことを呼ぶとなんかむずがゆい。
初めて会ってから一か月ちょっとくらいか。何も無いと思っていた俺の中に精一杯うっとうしい感情が浮かび上がってスカスカだったところを占めていった。これ以上、何があれば俺のスカスカが埋まるんだろう。そう考えたら、俺が、対人に抱く感情。誰かを好きとか嫌いとか、そんな単純な感情だ。
そして俺がこいつに抱くそれがどちらかは、諦め半分でも、知れてる。
「お前以外の人間なんか居ても居なくてもいいわ。むしろ、これ以上お前に害為すだけなら世界中の人間みんな死ね」
「か、過激派…」
「俺は自分以外の人間に興味なんか無かったんだ。自分にも興味なんか無かった。なのにお前のせいで俺の『人生』狂った。だから責任を取れ。俺はこの世界と折り合いつける気はねぇ。俺が思ってた以上に不条理な世界だ。だから、でもな、」
我ながら自己満足できたねぇ理由だな。生まれて初めて対人に抱いた感情が『好ましい』だったとする。だけどこれは友愛とか博愛とかそんなお綺麗な好きじゃない気がする。お前が怪我したら通報すんのは俺の仕事だ。お前が怪我すんのを見るのも俺の仕事だ。俺だけの仕事だ。この役割は、誰にも渡したくない。どんなに血を流すお前を見てつらくても、無力でも、不条理な世界への敗北感に打ちのめされても、これだけは絶対に折れない感情。
「俺はお前を守ってやりたい」
いくら年季の入った引きこもりでもな、世間知らずでもな、この感情の意味は解る。
お前が俺のこと都合の良い通報マンと思っててもいい。俺は、俺を理解するために思ってること洗いざらい吐く。でも、そうだな。お前が隣に居ない生活は、あんまり楽しくなさそうだ。そう思うとやらかしたな、俺。ドン引きしてたらどうしよ。自業自得、乙。笑えねえ。
「郁」
「…なんでこのタイミングで名前呼ぶんだよ」
「そう言う大事な事は」
「いってぇ!」
「目を見てちゃんと言え」
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