死んでたまるかちゃん。3


「おい、死にたがり。靴紐ほどけてるぞ」

「ん?ああ…(しゃがみ)」

「グォッフ」

「だからなんなんだよその踏み潰されたヒキガエルみたいな悲鳴は(結び)」

「この蕎麦うめぇ」

「蕎麦!?」

「すみません!すみません!!自転車でバランス崩して出前の蕎麦が!!」

「飛んできた(もぐもぐ)」

「ベタすぎる」

「今日のあたし、ついてるな。蕎麦とつゆが同時に口にイン」

「額に陶器が刺さってるけどな。てか何普通に食ってんだよ」

「案ずるな、救急車はまだ早…グォッフ」

「うわあああ!!」

「もしもし?殺しても死なない女が六段積みのざるそば顔面に食らった挙句、チャリに乗ったまま態勢立て直し損ねた蕎麦屋の兄ちゃんが思いっきりペダル踏み込んではねられました。はい、たぶん六メートルくらい吹き飛びました。そして俺から見て十字路の死角からサッカーボールが飛んできて滞空中にみぞおちにヒットしました。誰ですかね、蹴ったの。速度的にメッシとかですかね。いや、救命戦士Tさん『ナイッセーーーーブ!!』じゃなくて。車道に転がり出て車にドリブルされる前に救急車お願いできますかね。あ…もうされている。頭だけ死守している。いやだから『ナイッフォローーーー!!』じゃなくてry」


※ ※ ※ ※ ※


「いや、君も毎日大変だね。最近あの子とよく一緒に出掛けてる?」

「はぁ。なんか離れててもあいつ事故る度に毎回体の動く場所フル稼働させて報告のメール 送ってくるんで」

「あの怪我で!?」

「かなり前ですけど『まぁた事故ったwwwアヒャーwww』でなんかもうめんどくさくな ったんで一緒に出歩いてみてるんですけど結局これで」

「定形文とかじゃなくて!?あのガラケーをどうやって打っていたんだ…」

「さっきTさんがサッカーと言う単語に過剰反応してた理由もあいつに聞きました」

「あー。俺サッカー好きでねー。てゆーか事故現場で被害者とする話かなそれ?」

「おい!ぼさっとすんな!殺しても死なない女搬送するぞ!」

「あ、はい!じゃあね、死にたがりくん!」

「(救命戦士にまでスゲエ呼ばれ方してる…)」


 俺みたいにめんどくさくなったのかなんなのか、この事故のあと、救命戦士がいち早く駆け付けれらるように死んでたまるか女用のハザードマップが作成された。当然のごとく俺のところにも届けられた。A~Z地区までこの広い市内が区切られている。なんで俺の家単体がA地区で歩いて十分ほどの場所にある死んでたまるか女のマンション単体がZ地区なのかはあえて糾弾しないでおこう。


 救命戦士に『ハザード』扱いの女。っょぃ。もうそれくらいしか言葉が無い。


 最近ほぼ毎日この女と出掛けている。確かに毎日か隔日で「事故った」って文面で見るのはしんどいものがある。どんな惨状か想像するのも嫌だし、家から飛び出すのも心臓が躍る。勿論色んな意味でだ。この女に安全な場所など無い。だから、俺がめちゃくちゃ久しぶりの外界に慣れるまでは、この女と一緒に出歩くことにした。まぁ、案外、外も悪くない。

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