3 起床
「うおす、賢司」
紀雄はまだ寝ぼけているようで、欠伸を噛み殺している。
「スナフキン、早く起きろよ。ボケボケしてる場合じゃない」
「んだよ…」
渋りながら紀雄は賢司のほうを見て、そこで眼を大きく見開いて息を止めた。
「あん…?」
辰也のつぶやく声も聞こえた。
「ここ、どこ?」
「わかんね」
賢司はそっけなく言った。
「俺も知りたい。起きたらここに寝てた」
賢司が、辰也から順番に眠っていったこと、最後に自分一人が残ったこと、男に殴られたことまでを話すと、紀雄が憤然として言った。
「それならわかりきってんじゃねえか! その男だろ、そいつが俺達を身ぐるみ剥いでこんなとこに置き去りにしたんだ。新手のボッタクリだ!」
「身ぐるみ剥がれてるか? 着てるもんそのまま、財布も時計も全部そのままなのに?」
賢司に言われ、紀雄は自分の身体を探り、それが事実であることを確かめた。
「なんだよ、携帯まであるぜ」
「辰也は? なんか盗られたか?」
辰也は首を横に振った。
「あ、いや、待て! ないぞ!」
紀雄が驚きの声を上げた。
「え? なんか盗られたのか、スナフキン?」
「ギターがない」
賢司は、紀雄の脇腹をつついた。
「アホか! お前はギター抱いて寝るのか! なくて当たり前だろ!」
「ギターはギタリストの命だぜ?」
「だったら抱いて寝ろ!」
「ま、まぁ、まぁ」
辰也が仲裁に入る。
とにかく、どうやら盗られたものはないようだ。
しかしそうなると、さっぱりわからない。
「お…なんだ、こいつらも来てんのか」
紀雄が女達に気付いた。
「なんなんだろな。六人も部屋から海まで連れてきたりして。新手のドッキリか?」
「それならそれでいいんだけどな。仕掛け人ボコにすれば片づく話だろ」
賢司は言ったが、そんなことではないと確信していた。
ドッキリと称することにしては、なんというか―気味が悪い。
もちろん自分がいままでそういう経験をしたことがあるわけではないが、少なくとも、テレビで見たことがあるダマシの類とは、なにかが違う。
なんというか、素人臭い感じというのだろうか。
賢司自身が、殴られるという実際の暴力を受けたからそう感じるのかもしれないが。
ヤラセのドッキリで、本当の暴力まで振るうだろうか?
「それで?」
紀雄が賢司に視線を流した。砂をすくっては手のすき間から流している。
紀雄はそれ以上続けなかったが、賢司には、紀雄が自分の意見を求めているのだとわかった。
なんとなくわかるのだ。
クラスでは、賢司は牽引役であり、シンボルだった。
由里は確かに委員長であったし、指示を出す人間だったが、彼女は、軍隊の参謀、策士みたいなものだ。
軍旗を持ち、みんなを実際に率いて先導して突っ走るのは賢司の役目だった。
「なんだかさっぱりわからない」
賢司は正直にそう言った。
「なにが起きたのか、まずこれからどうすりゃいいのか、なんにも」
「宿に戻らないと」
辰也が言った。
「宿に戻ったら、みんなして『はーい、ドッキリで~す』ってプラカード持ってるかもな」
紀雄は笑って言ったが、顔は笑っていなかった。どちらかと言えばひきつった感じで、こみ上げている怒りを堪えているようだった。
「宿に戻るのは確かに賛成だ」
賢司はうなずいた。
「とにかくそうしないと話にならない。その前に宿がどこなのかよくわかんないけど…」
「あ、でもそれ以前に、ここ、ワッカ島なの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます