2 砂浜

賢司が寝ていたのは、砂浜だった。

「…なんだこりゃあ?」


目が覚めたら芋虫になっていたとかいうのを、現国の時間に読んだ気がするが、目が覚めたら砂浜で寝ていたなんてのは初耳だ。


あのとき…そうだ、あのとき、後ろから殴られてから、いままで寝ていたのか。

それで、目覚めるとなぜか砂浜にいる、と。


後頭部が少しひりひりする。触ってみると腫れていた。


くそっ、あの野郎。宿に帰って見つけたらぶん殴ってやる。いたずらにしてはタチが悪いし度が過ぎている。


あの男が、賢司をこんなところまで運んできたのだろうか?

なんのために?


賢司は、男が由里達の部屋にいたことを思い出した。

泥棒だろうか。

そう思って、自分の身を探ってみた。腕のGショックはそのまま。ズボンの尻ポケットからは財布とカード入れが、前ポケットからは鍵束と昨日のカロリーメイトが出てきた。財布の中身も減っていない。なくなったものはないようだ。


と、すると、目覚めたら砂浜にいたとは、いったいどういうわけなのだろう。

賢司は思考が停止しかけているのを感じた。なにがなんだかわからない。


他の連中はどうしたんだろう?

ようやくそこに考えが至って、慌てて左右を見まわした。


人間の視覚はだいぶ恣意的なものらしい。

意識になかったことは脳に留まらないように出来ているようだ。


すぐ脇に辰也と紀雄が眠っていた。さらに向こうに、由里達三人の女が寝ているのも見えた。

賢司達は、砂浜に横一列に並べて寝かされていたのだ。


ここから縦に並ぶ五人を見ていると、太陽が鮮やかに照っているというのに、まるで彼らが死体になってしまったように見えて、そら恐ろしくなった。


そんな白昼夢を振り払いたくて、賢司は、砂浜をがむしゃらに這って、紀雄と辰也の身体を激しく揺すっていった。


「…ん…ああぁぁ…」

幸い、二人ともすぐにもぞもぞ動き始めた。

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