6 卒業旅行
そんなわけで、賢司がまず辰也に、五、六人の、いちばん気の合う連中で、卒業旅行に行こうともちかけた。
賢司は、卒業と旅行というダブルの開放感で女の子も開放的になるかもしれない、なんて、アホとしか言いようのないスケベな期待を辰也にさせた。
辰也も言うまでもなくアホでムッツリスケベだから、それに同意した。
紀雄を含めて、男達三人はすぐに決まった。
男達が集まると、いつの間にか女達もつられて集まってきて、男三人女三人の六人組が、あっという間に出来あがった。
それ以上でもそれ以下でもなかった。まるであつらえでもしたようにメンバーが決まった。
どうして来る気になったのか、いまいちわからない女も一名いないではないのだが、とりあえずそんなことはどうでもいい。一緒にいて楽しそうな連中が何人か集まった、それが大事なのだ。
旅行プランは辰也が引き受けた。
辰也はこういう細々した計画を立てたりするのがとにかく好きなのだ。何事も緻密な計画をもってやる。
賢司からするとむしろ少し神経質過ぎるように感じられるときもあるが、個人の資質だから、とやかく言うことではない。
賢司の当初の考えでは、春スキーが有力な行き先だった。
だが、旅行先を求めて辰也がホームページを検索していたところ、たまたま、とあるページが見つかった。
南西諸島からさらに外れたところにある、ワッカ島という離島の観光協会が、井出流星群を離島の別荘で見るというツアーに六人を募集していた。
辰也が応募してみたところ、ズバリ当選した。
と、賢司達六人が、間もなく着陸する那覇空港行きの飛行機に乗っているのはそんなわけだ。
写真で見た限り、ワッカ島は南国の島の例に漏れず、美しい珊瑚礁に囲まれた島だ。
楽しい旅行になるに違いない、賢司はそう思っていざ飛行機に乗ったのだが、それがいきなり飛行機酔いのザマだ。まったくついていない。
まあ、飛行機から降りて地上の土を踏めば、こんな悪酔いとはオサラバだ。
育枝なり妙子なりにアタックを開始してやろうか。
賢司はこの時点ではそんな呑気なことを考えていた。いや、誰もが―由里でさえ―この時点では呑気だっただろう。
「佐々木。那覇についたらどうするの?」
育枝が辰也に尋ねた。
「空港から港までタクシーに分乗して、港から、わっか丸っていう高速船でワッカ島まで」
「その船って、どのぐらい乗ってるの?」
「着くのが五時過ぎだから、三時間ぐらいかな」
その会話を耳にして、賢司は声なくうめいた。
なんということだ、あと三時間も船に揺られるのか!
「なんだ橋本、また吐くのか? 吐いてもいいけど俺には吐くな、佐々木にしろ」
「橋本君、トイレあっち」
紀雄も育枝も好き勝手なことを言う。
「少し休んでから行きませんか? 橋本さんが大丈夫そうになってからでも…」
妙子は心配そうにそう言ってくれる。育枝達とは大違いだ。
「ダメだよ、船に間に合わなくなる」
辰也の几帳面さも、こういうときはちょっと鬱陶しい。
「でも、一本ぐらい待っても…」
「一日二本しかないんだよ。乗ろうとしてるのは二本目だから、逃すと明日だよ」
「それなら仕方ないわね。引きずってでも連れていかないと。困ったお荷物ね」
由里がいかにも面倒臭そうに言った。
なにもお荷物呼ばわりしなくてもいいだろうにと思うのだが、由里はそういう女だ。
物事に容赦とか妥協ということをした試しがない。
そんな由里がクラスの委員長だったからこそ、学祭のクラス企画も妥協なく仕上がったと言えるのだろうが、しかし、もうちょっと丸くなってはくれないものだろうかと、常日頃から睨まれている賢司は思ってしまう。
「とにかくよう、橋本がいるといないとじゃ、旅の面白さがまるで違うんだからよ。最悪、俺がおぶってでも連れてくって」
紀雄の、頼もしいのか有難迷惑なのかよくわからない請負いで、ひとまずその場の話はついた。
このあと、さらに船に三時間か。
賢司は、絶望という文字が固まりになってどっしりと頭上にのしかかってくるのを感じてしまった。
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