第16話 たこ焼き
好物である。
死ぬ前に食べたい物ランキング12位くらいの愛すべき食べ物であると思っている。
惜しくもランキング上位から零れ落ちてしまったたこ焼きについて私は詳しくは知らない。人気店だとか老舗だとか、そういう店の情報や知識はゼロだ。関西人であるというのに。
他の関西人のことは知らないが、私はあまり『粉モン』を食べない。こんなことを言うと関西追放の刑に処せられそうだが、案外こういう関西人は多いのではないだろうか。
理由は高いからだ。小麦粉を水などで溶いて、蛸を入れて焼いたものが五~六百円もする。お好み焼きに至っては店で食べると千円以上するものまである。安いとは言えない金額を支払って小麦粉料理を食べるのには昔から少し抵抗があった。
私が貧乏でケチでチビでデブなせいであることはわかっている。粉モン自体に罪はない。
粉モンと他の料理を天秤にかけた時、同じ値段ならば、他の何かを食べた方が得な気がして、ソースのかかった粉モンを避けて他の店でパスタを食べたりしていた。同じ小麦粉料理だというのに、よくわからない理屈と価値観を推して形の違った小麦粉料理を嬉々として食していた。
ちなみにこの天秤思想は今も変わっていない。
そんなケチな人間を救うが如く、巷ではたこ焼き粉など、素人でも家庭で簡単に粉モンを作るための商品がたくさん販売されている。だがそんな便利な存在にも欠点はある。それは具まで付属されていないところである。
「当たり前やんけ!」と突っ込んだあなたはナイス関西人ですね。冷やし飴を差し上げましょう。
さて、家でたこ焼きを作ろうにも蛸を刻み、紅ショウガなどの細かい具材を用意してあのたこ焼き器でチマチマくるくるとアクティブな内職のような作業を繰り返さなければたこ焼きを口にすることはできない。
なんというハードルの高さ!たこ焼き自身も己の手間のかかった生い立ちに驚いていることだろう。
しかし食べ物というものはどんなものでも手間をかければかける程、見た目も味も深みが増すものである。たこ焼きも然り。
一番おいしいのはプロがその場で焼いて提供しているたこ焼きに違いない。それはわかってはいるが、やはり私が外でたこ焼きを買うことはほぼほぼないだろう。
雑踏の中で出来立てのたこ焼きを頬張るよりも、関西から離れた土地で一人静かに家で冷凍たこ焼きを貪る方が性に合っているからだ。
世の中には私のようなアウトロータイプの関西人もいるということを知ってほしい。
ひらがなエッセイ ~ アイウエオから愛をこめて ~ 千秋静 @chiaki-s
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