第13話 スイーツ

 私の生き甲斐の話をしようと思う。


 前に書いた『砂糖』と重複する内容になるかもしれないがどうでもいい。


 甘いものが生き甲斐だと感じ始めたのは割と最近である。幼い頃は甘いものよりも辛いものやしょっぱい食べ物が好きだった。駄菓子屋に行ってよく買っていたものはスナック系のお菓子やイカの酢漬けのようなものばかりだった。お菓子以外だと漬物なんかも好んで食べる可愛げのない舌年増な子どもだった。


 それがいつからか、ケーキ、クッキー、チョコレート、あんこなどに惹かれるようになった。理由は過去を振り返ってみても思い出せない。強いてそれっぽい出来事を挙げるならば、ブラックコーヒーのおいしさに目覚めた時期辺りからがきっかけと言えるのかもしれない。


 大学生の頃くらいだろうか、コーヒーの苦さとお菓子の甘さのマリアージュを知ってしまった瞬間から甘いもの好きになってしまったような気がする。


 スイーツは視覚的にも味覚的にも偉大なる魅力を持っている反面、食べ過ぎると健康を損ねる原因にもなりうるしょっぱい存在でもある。だが確実に幸せを与えてくれる存在というものは尊い。普段生きていて、間違いなく私を幸せにしてくれるものなどほぼ存在していないから尚更そう思える。


 恋愛小説でよくある、恋人にフラれても「好きになったことは後悔していない」というセリフのようなもので、甘さと苦さの組み合わせの良さを知ってしまったことに後悔はない。たとえ食い過ぎで太ってしまうことがあってもだ。


 『馬鹿と鋏は使いよう』という言葉がある。同じようにスイーツと自制心は使い方次第で人生に多大なる幸福をもたらすエンジェルとなる。


 私は自制心を振り切って自分の欲を満たそうとする獣のような人間だ。これは自分自身の制御の仕方がまだわかっていない鋏以下の馬鹿であるということを表している。そんな馬鹿にもスイーツは優しい。真綿で首を締める様に優しく私の血糖値をズンズン上げて来る。でも悔いはない。


 世知辛い世界でひと時でも何かに優しくされることは、私にとって最高に尊い瞬間なのだから。

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