第10話 恋
無縁である。
一言で終わるようなタイトルを選んで二行目で後悔している私である。
情けないことこの上ない身の上なのだが、恋のワンランク上にある愛なら知っている。親子の愛、友だちとの友愛、突然遭遇する人間愛なら割と身近にある。だが恋という存在とは縁遠く生きてきた。多くの若者が恋に恋してのたうち回る青春時代でさえ、私は恋とはほぼ無縁であった。
『ほぼ』ということは恋に関する経験がゼロではないのでは?と捉えられるが、そこにはちょっとワケがある。確かに恋をしたことは無くはない。しかし一般的に語られる恋とは、人間対人間の間柄のことで、人間対『この世に存在しない者』との間では成り立たないものだと考えている。
そう、私は絵の中、または画面の中の人物になら恋(らしきこと)をしたことはある。だが現実にはいない相手に恋らしき感情を抱いたとしても、相手が生きた人間ではなかったので恋をした回数にはカウントしていないのだ。
今ならアニメのキャラクターにハマって二次創作活動などに勤しんで、自らを腐女子と名乗る女性が増えたり、ハマり具合に問わず、自分はオタクだとアピールする人も多くなってきた昨今、堂々と二次元のキャラクターへの愛を叫ぶことが可能になってきた。
私が二次元キャラに恋心を抱いていた二昔ほど前は、今ほどアニメや漫画が社会的に話題になる事は少なかった。更にインターネットを使った情報の共有や同志を募って推し(好きなキャラクター)について語り合うような場もなかった。そんな時代で二次元キャラクターにハマっているということはなかなかカミングアウトし辛い癖(へき)だと考えていた。
そんな閉鎖的な状況で私は一人、推しが存在している媒体を眺めつつ妄想に耽っては心の中で泣いたり笑ったりしていたのだ。決して三次元で出会うことのできない相手を想う感情や表情を表に出すことはいろいろな意味で無理だったが、そこには違うことない『恋』という感情が確かにあった。
秘密めいたものほど不思議な輝きを放つもので、私の中でカウントされなかった恋らしき感情は現実にいない者を愛すという異端さと羞恥にまみれた思い出ながら、ほろ苦く、どこか切なさを残して私の中に妖しく輝くものとして存在し続けている。それは自分が創造したものであるから、都合よく美しく輝いていて当たり前なのだが、自分が恋だと思えば作り物であっても恋になるのだ。現実世界では恋ができなくても、頭の中では恋愛玄人でいられる。
もう年も年だし、そろそろ自分の全てを受け止めてもいい年齢になったのなら、日陰でしか存在できなかった恋らしきものをれっきとした恋とカウントしてもいいのかもしれない。
それなら今日から私は恋多き女でビッチだ。ただ恋した男たちと共に年を取ることはできず、私だけが年老いてゆく現実だけが辛い。
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