第2話 胃
二話目は『胃』である。『陰気』と迷ったのだが、これを選んだが最期、救いのない話で終わってしまいそうなので無難な『胃』を選んだ。
いきなりだが、私の胃は丈夫である。さっきも賞味期限が一週間過ぎた豆腐を食べたばかりである。賞味期限が二週間ほど過ぎたうどんも最近食べた。その後特に胃や腸が暴れ出すということはなく、私の胃腸は滞りなく働いてくれている。我ながら有能な胃を持って幸せである。しかし小さい頃は弱かった。すぐに胃が痛くなったり、風邪をひいたときには吐き下しで悶えた時もあったが成長するにしたがって私の胃腸は鍛えた記憶もないのに頑健な臓器へと変化し、今に至っている。
大体の食べ物は賞味期限が5~7日過ぎているくらいのものなら問題なく食べる。カビが生えているものや一目で生命の危機を察知できるもの以外は火を通すなどしておいしくいただく。人によっては賞味期限の切れたものというのは強敵で、多くの同志が戦いに臨んでは、戦い(実食)が済んだ後に自分が負け(食中毒等)たことに気付いてトイレで唸るという悲劇が度々起こっている。まるで食べ物とのタイマンである。そう、勝負をするからには人はいつも勝ってばかりもいられない。いつかは負ける日が来るものなのである。盛者必衰の理ナンタラカンタラというやつである。
もし私が今の調子でタイマンを繰り返していたら、いつかきっと『あたる』と思われるが、その可能性を含めて勝負をしているのである。つまり百も承知でやっている一人ロシアンルーレットなのだ。『当たる』『中る』どちらの漢字を使っても大正解な未来が私の人生には待ち受けている。しかしその未来は自分の行動次第で簡単に変えることができる。『賞味期限がオーバーしているものは捨てる』又は『賞味期限が切れないように食べ物を使い切る』この二つを心がけるだけでイカれたギャンブルから解放されるのだが、私はまだこの勝負の舞台から降りる気はない。
なぜなら上で書いた二つの条件を履行しようと思ったら、賞味期限の管理や買い物に行く頻度の変更など、自分のライフスタイルを大きく変える必要性が出て来るからだ。その手間を取るか、生涯胃腸を犠牲にしたロシアンルーレットを続けるか・・・。考えるまでもなくロシアンルーレットで闘い続けていくしか道はないと思っている。食べ物の賞味期限も守れない人間がライフスタイルを簡単に変えることなどできないと自分でわかっているからだ。
最早、終わらないロシアンルーレットさえ、私のライフスタイルの一部になっていると言っていいのかもしれない。他人から愚かだと思われても、勝負は続く。いつか『し』がテーマの時に『食中毒』という話題が上がる日が来るかもしれない。
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